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2008年10月30日(木) 01時44分

日中刑事条約 確実で迅速な共助ができるか(10月30日付・読売社説)読売新聞

 中国に対し、一層の捜査協力を促していくテコとすべきだろう。

 日中刑事共助条約が11月に発効する。両国が条約に署名した昨年12月以降、国会承認などの国内手続きを進めてきた。米国、韓国に次ぐ3か国目の締結となる。

 両国をまたいで起きる中国人犯罪に対処するため、日本から早期締結を求めてきた経緯がある。効果的に活用し、事態の改善につなげてもらいたい。

 条約の目的は、相手国の要請に基づき、刑事手続きについて「最大限の共助」を実施することにある。例えば、捜査に必要な証拠の取得、容疑者の逃亡先の特定、犯罪記録の提供などだ。

 こうした手続きは、従来も外交ルートで行われてきた。だが、間に両国の外交当局が入るため、回答が届くまでに数か月以上かかることは当たり前だった。刻々と動いている捜査に、十分に対応できない面があった。

 それが条約によって、日本の警察庁、法務省と、中国の治安当局の間で直接やり取りできるようになる。しかも、共助要請に応えることが義務化される。条約に期待されるのは、確実で迅速な共助の実施である。

 中国とは1990年代半ばから捜査協力を進めてきた。常に懸案となってきたのは、不法入国、薬物密輸、文書偽造、殺人や強盗などの中国人犯罪だ。

 昨年、日本国内で刑法犯罪で検挙された外国人の約4割は中国人だった。昨年末現在、日本で犯罪を起こし、国外に逃亡している外国人665人のうち300人は中国人というデータもある。

 日中の警察がともに目を光らせているとなれば、犯罪の抑止にもなるだろう。連携を密にし、実績で示していくことが大切だ。

 中国製冷凍ギョーザ事件では当初、中国側は、殺虫剤の混入元は日本であるかのように主張し、円滑な協力ができなかった。

 中国本土から、日本の中央省庁などのホームページの機能をマヒさせようとするサイバー攻撃も相次いでいる。警察庁は、外交ルートで何度も中国側に発信記録などの提供を求めてきたが、まったく回答がない。

 共助条約が発効しても、外交関係や政治的事情が絡む事件について、中国側がどこまで協力するかは不透明だ。条約の真価が問われる場面でもある。

 日本としては、重要な共助要請については、誠実な履行を繰り返し求めていくべきだろう。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20081029-OYT1T00799.htm