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2008年10月30日(木) 00時00分

ドーム周辺の高さ制限で反発中国新聞

 広島市が本年度中の策定を目指す世界遺産の原爆ドームと平和記念公園(中区)周辺の景観計画で、建築物の高さを制限する方針に一部の住民や地権者の反発が強まっている。「マンションなどの資産価値が低下する」との理由だ。被爆地のメッセージを発信する空間の景観保全は必要だ。しかし、負担をこうむる側への説明責任は十分果たしているのか。市は重い課題を突き付けられている。

 平和記念公園に隣接する12階建ての高層マンション。50歳代の主婦の一家は5年前、高層階の一室を購入した。総額約5000万円で20年ローン。「子や孫に、お気に入りの眺望を残すのが夢」という。

 しかし、今春、市がビルの高さ規制を含む景観計画の策定を進めていることを知った。老朽化などに伴う建て替えの場合、単純に計算すれば、現在の3分の2の8階までしか認められない。全42戸のうち、14戸が行き場を失うことになる。

 原爆ドームが世界文化遺産に登録されたのは1996年。それ以前からビルが林立する周辺の景観に懸念を示す声はあったが、市の対策は後手に回った。2年前、世界遺産のバファーゾーン(緩衝地帯)にあたるドーム近くの高層マンション建設が景観論争に発展する。周辺景観の悪化を理由に、「危機遺産」となる可能性すら指摘された。

 取り組みの甘さを批判された市は、景観計画づくりに着手。景観計画の高さ制限では、現状より低層での建て替えを強いられるビルやマンションが約20棟に上ることが報告された。

 市は建て替え時の解体費などの補助は検討するとしたものの、資産価値の補償は「都市計画の容積率などの制限と同様、必要ない」と応じない姿勢を示した。住民との溝は埋まらず、計画の策定に向けた公聴会の日程も決まっていない。

【写真説明】ビルに囲まれた原爆ドーム。市は周辺の高さ制限を打ち出している

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn200810300066.html