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2008年10月30日(木) 08時01分

【あなたが裁く 迫る裁判員制度】求められるPRの転換産経新聞

 □イメージ先行、具体的に何をすれば?

 裁判員制度のスタートに向け、法務省や検察庁、裁判所、弁護士会の法曹3者は活発なPR活動を続けている。だが、裁判の「敷居の高さ」を払拭(ふっしょく)することを意識しすぎるのか、イメージ戦略に偏りがちで、制度の内容自体がPRで本当に浸透しているかは疑問視する意見も根強い。負担を強いられる企業や一般の人からは「制度が始まることは分かったけれど、具体的に何をさせられるのかがまだよく分からない」との声もあり、PRの手法は転換を迫られているようだ。

 ■ゆるキャラ

 法務省や各地の高検、地検、地裁、弁護士会は裁判員関連のキャラクターを作ってPRしている。

【関連フォト】現代用語の基礎知識入りを果たした「サイバンインコ」はこんなキャラ

 千葉地裁は県の名産品のピーナツをモチーフとし、フェア(公平)にジャッジ(裁き)をする意味で「ジャッジくん&フェアーちゃん」を考案。日弁連も「信念を曲げない強さで“サイ”判員制度に臨む」として、サイにてんびんを持たせた「サイサイ」を統一キャラクターに採用した。

 鳩山邦夫元法務大臣は在任中、福岡高検が作ったいわゆる“ゆるキャラ”の「サイバンインコ」の着ぐるみを身につけるパフォーマンスを行った。9月からは、同省が女優の上戸彩さんを起用したポスターを電車やバスの車体にラッピングするなど、視覚的に訴えている。

 平成18年には、当時の松尾邦弘検事総長が文化放送のラジオ番組に生出演してPR。現職の検察トップがテレビ・ラジオの生放送に出演するのは初めてだった。“お堅いイメージ”を取り払うためのPRが、制度の広報活動の柱となってきた事実を物語っている。

 ■説明会

 法務省は、経済団体などを通じて説明会を数多く実施してきた。19年4月〜20年7月の間に、同省や検察庁が行った説明会の参加者は述べ約75万9000人にのぼった。同省は「PRは着実に進んでいる」と胸を張る。

 だが、PR活動が制度への理解を深めるという点で、どれだけ貢献しているかは疑問だ。同省や地検、地裁などが説明会を行っていることが、世間一般に知られているとは言い難い。

 人材派遣大手のパソナ(東京)は「裁判員制度の内容がよく分からない」との声が社内にあったことから、社員や派遣社員を対象に勉強会の開催を決めた。だが、検察官や裁判官に講師を頼もうにも、窓口が分からず、開催のメドがなかなか立たなかったという。

 雑誌『広告批評』の河尻亨一編集長は、「親しみやすさだけのダジャレのようなキャラクターや、人気タレントを広告に使うという発想が、いかにもお役所的で感覚がずれている」と指摘。「数年前ならまだしも、制度の開始は目の前。イメージ戦略の段階は終わった」と現状のPR活動には厳しい評価をしている。

 ■ボロが?

 制度開始が間近に迫りながら、重要な“中身”を発信できない中、どのようなPR活動が求められているのだろうか。河尻編集長は、「いままでになかった負担が国民にかかるという意味では、どんなにイメージ戦略をとっても制度を見栄え良く伝えることは難しい」と話す。「制度が始まっていない以上、国民の中で当事者意識を持っているのはごく一部。そんな状況で、国民の側から積極的に情報を仕入れようとするとは思えない」と分析する。

 その上で、「重要なのは制度についての具体的な情報発信。どんな制度なのかという国民の声に、一つ一つ答えていくことが必要ではないか」としている。

 また、ある法曹関係者は「実際にどんな問題が起きるか、誰にも分からない部分がある。制度の内容に踏み込んで説明するとボロが出るのではないかという思いもある」と本音を吐露する。「裁判員の具体的な仕事は、選ばれた人に現場でしっかり説明していくしかない」との指摘もあり、PR活動の“迷走”は、来年5月の制度開始以降まで続きそうな雲行きだ。

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