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2008年10月30日(木) 22時29分

<解散先送り>不況の影 揺れる有権者毎日新聞

 選挙の顔だったはずの麻生太郎首相が消費税の引き上げを明言し、衆院の解散を先送りした。27兆円もの追加経済対策を示した30日の記者会見。「選挙で安定政権をつくるべきだった」「いや解散している場合じゃない」。日に日に不況の影が濃くなるなか、有権者の心も揺れ動く。

 中小零細企業が集中する東京都大田区。プレス加工業を営む蛇子(じゃこ)勝正さん(68)は今でも「早く選挙をやるべきだった」と思う。「安倍(晋三)さんも福田(康夫)さんも選挙の洗礼を受けなかったから」

 自分と従業員1人のささやかな会社。8月以降、6社ある取引先からの発注が減り始め、先細り感にさいなまれる毎日だ。麻生首相は会見で「3年後に消費税を引き上げさせていただく」と言った。「欲しいのはカネではなく仕事。中途半端な行政改革で増税されたら困る」。今選挙をすれば自民が負けるとの観測がもっぱらだ。「麻生さんも負け戦はしたくなかったんでしょう」と分析する。

 「争点を明らかにしてから選挙をすべきだ」。25年間、地域のお年寄りの家に往診を続ける医師、川人(かわひと)明さん(61)はそう考える。「医師不足は単に人数を増やせばいいというレベルではないのに、議論が深まっていない」

 足立区千住を中心に約170人の患者宅を回る。地域外からの往診依頼もあるが、人手や所要時間を考えると応じられないこともある。「需要に見合った体制になっていない」。課題はあるのに政党間の議論がなく、選択肢が見当たらない。

 尾瀬から車で約2時間の福島県只見町で、米とトマトを生産する農家の三瓶(さんべ)藤助さん(71)も首相の選択を評価する。「国民が困っている景気の対策について自民と民主が審議を尽くすべきだ。方向性を示さず選挙しても選びようがない」と話す。

 「雇用を何とかしてほしい」。派遣社員として工場を転々としてきた群馬県の男性(46)は嘆いた。首相は25〜39歳のフリーターを正社員に雇用した企業への助成を打ち出したが、自身は対象外。「姥(うば)捨て山へ行けと言われているようなもの」と感じる。

 この夏、約3年勤めた自動車部品工場を契約半ばで解雇された。「今さら何をばらまかれても僕らは救われない」と悲観的だ。

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