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2008年10月26日(日) 19時27分

麻生首相との交友も 医療機器汚職の贈賄・女社長の「政官界人脈」産経新聞

 「彼女がすべてを話したら、政官界はぐちゃぐちゃになる」。警視庁幹部がこう話す「彼女」とは、医療機器販売会社「ヤマト樹脂光学」(東京、破産手続き中)元社長の久保村広子容疑者(74)だ。眼科用医療機器納入をめぐる汚職事件で贈賄容疑者として逮捕され、眼科医との濃密な癒着があぶり出された。贈り物の箱に現金。高級料亭で接待…。その“商法”を支えた華麗な人脈は医師を超えて政官界にまで広がり、麻生太郎首相も含まれていた。眼科医を次々と籠絡した女社長の政官界人脈とは−。

 ■口固い女社長

 「公立、私立を問わず、ヤマト社の丸抱えだった医者は数え切れない。『きれいごとだけではやっていけない』が口癖だった久保村さんの号令のもと、接待や現金攻勢のすさまじさで有名だった」

 医療関係者は「ヤマト商法」についてこう証言した。

 その一端が警視庁捜査2課の捜査で明らかになった。久保村容疑者の逮捕容疑はこうだ。

 久保村容疑者は平成18年1月から19年4月にかけ、国立身体障害者リハビリテーションセンター病院(埼玉県所沢市)の医療機器の発注情報を漏らすなどの便宜を図ってもらった謝礼として、同病院元第3機能回復部長の簗島(やなしま)謙次被告(63)=収賄罪で起訴=に、13回にわたり計195万円のわいろを渡した。

 17年1月から19年7月の間には、防衛医科大学校と同大病院(ともに所沢市)の医療機器について同様の便宜を図ってもらった謝礼として、同大教授で同大病院眼科部長の西川真平容疑者(49)=収賄容疑で逮捕=に、4回にわたり計260万円のわいろを渡した。

 「久保村容疑者は調べに意外なほど口が堅い。わいろでのし上がった人だけに、しゃべったときの影響を考えているのではないか」

 警視庁幹部は久保村容疑者の取り調べの姿勢についてこう指摘する。久保村容疑者は逮捕容疑については認めているものの、そのほかについては口が重いらしい。

 ■人生を捧げた女一代のリアリズム

 逮捕容疑から垣間見える露骨なわいろ攻勢。そんなビジネスを繰り広げてきた女社長の久保村容疑者とはいったいどんな人物なのだろうか。

 久保村容疑者は長野県伊那市生まれ。日本大学卒業後、順天堂大学眼科医局などで病院職員として勤務した。

 その後、昭和37年ごろからコンタクトレンズの販売を手がけるようになり、48年に39歳の若さでヤマト社の社長に就任した。

 「業界では最古参の部類。独身でもあり、文字通り人生をヤマト社に捧げてきた人」(警視庁幹部)

 意に沿わない社員は更迭−。そんなワンマンぶりは業界内にとどろき、そのトップダウンの社風から、ヤマト社は周囲からこう揶揄(やゆ)された。

 「久保村商店」

 その久保村容疑者が展開したのは“贈賄ビジネス”とさえいわれる営業活動だったという。

 高級料亭での接待は当たり前。

 中元や歳暮時期にはメロンや羊羹などの贈り物を欠かさず、医者を抱き込むことに腐心した。

 ヤマト社関係者によると、箱に金の入った封筒を忍ばせることは日常茶飯事。

 ヤマトの営業マンにまず求められた仕事は、医師の自宅を調べることだったという。贈り物を送付するためだ。

 かといって、久保村容疑者は“ムダ金”を注ぎ込むつもりは毛頭なかったようだ。それまではわいろを注ぎ込んでも、「効果がない」と判断したらあっさりと資金提供をストップするリアリストでもあった。

 こんな話がある。

 国立身体障害者リハビリテーションセンター病院の部長だった簗島被告に対し、久保村容疑者は東京・銀座の高級すし店などで接待を繰り返していたが、ある時点でピタリと接待と資金提供を中止したのだ。

 「開業するのでは、もう意味がない」

 簗島被告は昨年3月に国立身体障害者リハビリテーションセンター病院を退職し、都内で開業した。接待ストップはその直後。久保村容疑者の考え方をよく象徴する話だ。

 防衛医大の西川容疑者は飲食接待こそなかったが、計260万円の現金を自分の研究室で受け取っていた。

 平成17年1月の初めてのわいろ授受場面。

 久保村容疑者が「これを使ってください」と言って封筒入りの10万円を差し出すと、西川容疑者は断る様子もなく受け取ったという。

 「久保村さんは『これで一杯やってください』と現金を直接手渡しすることすらあった。接待は当たり前の業界とはいえ、ヤマトのやり方はあまりに突出していた」

 ライバルの医療機器メーカー関係者もヤマトのやりようにはあきれ顔だった。

 ■贈収賄の疑い「両手ぐらいあった」と警視庁

 久保村容疑者の医師人脈は、収賄容疑で逮捕された2人の眼科医にとどまらない。

 「実際、贈収賄のうわさがあった公立病院は、軽く両手(10)ぐらいある。すべて摘発しようと思ったら、何年かかるか分からない」

 警視庁幹部もあきれた様子でこう語る。

 また、19年秋に出回った1通の怪文書の存在も久保村容疑者の人脈の幅広さを印象づけている。

 《ヤマト樹脂光学は全国の国立大学を中心に、わいろと脅しによって、その売り上げを伸ばしてきた極めて悪質な会社です》

 こういう書き出しで始まる怪文書の差出人は「眼科業界に属する一人」。A4用紙9枚には東京都内や大阪府内、神奈川県内にある国公立、民間の5病院の医師らとヤマト社の蜜月関係を克明に描写している。

 事実かどうかは不明だが、その具体的な内容からは、ヤマト社の内部告発とも受け取れる。

 《全国の80の医学部眼科教室のうち、20以上はヤマト樹脂が特選して納入業者となっている》

 怪文書にはこうも記されていた。久保村容疑者が商売と直結する多くの眼科医を“飼い慣らしていた”実態が浮かんでいる。

 しかも、久保村容疑者が接触を図っていたのは眼科医だけではない。中央省庁の官僚にも“触手”を伸ばしていたことが明らかになっているのだ。

 その官僚とは、防衛省装備施設本部の課長補佐級の中堅幹部、A氏(51)。18年9月にヤマト社が開催した中国旅行に参加していた。A氏は西川容疑者がかつて在籍していた防衛医大の庶務課に所属していたことがあり、その間に久保村容疑者との関係を深めたという。

 旅行はヤマト社創立40周年を記念して、北京などを3泊4日で訪問するもので、社員100人のほか数人の招待客もいたという。A氏は招待客の1人だった。

 A氏は旅費は自分で負担したというが、自衛隊員倫理規程は費用負担の有無を問わず納入業者ら利害関係者との旅行を禁じており、問題視される癒着といえるであろう。

 ■首相も登場…「ヤマトのバックには政治家がいる」

 現金、接待、旅行…。

 あらゆる手を尽くして人脈を広げていった久保村容疑者。その中にはあっと驚く人物も含まれていた。

 麻生太郎首相だ。

 ヤマト社は平成7年〜18年の12年間に、麻生首相が代表を務める「自民党福岡県第8選挙区支部」や、首相の資金管理団体「素淮会(そわいかい)」に計400万円に上る献金をしていた。

 さらに、経営破綻したヤマト社の受け入れ先となった病院コンサルティング業「キャピタルメディカ」(東京都港区)は、社外取締役に麻生首相の甥(おい)の麻生巖氏が就任しており、「麻生首相周辺との密接な関係を想起させる」(眼科業界関係者)という声が出ている。

 親密な関係を裏付けるように麻生首相は外相当時の昨年6月、ヤマト社の設立40周年記念パーティーに出席した。そこでヤマト社の“堅実な経営”をたたえるあいさつをしていたという。

 ヤマト社はまた、宮下一郎衆院議員が代表を務める「自民党長野県第5選挙区支部」にも平成16年から5年間にわたり、毎年12万円、計60万円の献金をしていた。宮下氏の政治団体「創風会」の政治資金パーティーでも、30万円分のパーティー券を購入していた。

 久保村容疑者の故郷、長野県伊那市は宮下氏の地盤であり、久保村容疑者は父親の宮下創平元厚相の代からの支援者だったという。

 「『ヤマトの背後には政治家がいる』は有名だった。久保村容疑者は事あるごとに政治家との太いパイプを強調していた」

 こう振り返る眼科業界関係者。続けて「政治家との関係は、まさに代官さまの威を借る悪徳商人の姿とかぶる」と吐き捨てるように語った。

 人脈の広がりが明らかになるとともに、底なしの様相を呈してきている医療機器汚職。警視庁捜査2課は久保村容疑者をさらに追及し、癒着の全容解明を目指す方針だ。

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