記事登録
2008年10月25日(土) 20時34分

【米大統領選】オバマ氏の原点ハワイを探る産経新聞

 米大統領選の民主党候補、オバマ上院議員はハワイのホノルルで生まれ育った。高校を卒業するまでの多感な時期のほとんどを過ごし、彼も、ハワイでの経験が人格形成に大きな影響を与えた、と述懐している。オバマ氏をはぐくみ、「人種の坩堝(るつぼ)」といわれ多様性に富むハワイで、彼の「原点」を探った。(ホノルル 田北真樹子)

 大統領選の投票日が来月4日に迫ったというのに、「オバマ」「バイデン(副大統領候補)」と書かれた看板やポスターが少ないのには驚く。ホノルル市内はもちろん、オアフ島の北東部まで海岸線を車で走ってみても、市長選などの看板に紛れぽつんと1本立っているのを見かけただけだ。

 看板もポスターもいらないのかもしれない。ハワイは民主党の牙城だ。1988年以降、大統領選で共和党候補が勝利したことはない。オバマ陣営も、大金を投じてテレビ広告を流すこともあまりしていない。

 そうした街の表情とは対照的に、住民は熱っぽく「オバマ」を語る。オバマ氏は遊説日程を変更し23、24の両日、ホノルルのアパートに住む病気の祖母、マデリン・ダンハムさん(85)を見舞った。その数日前、タクシーの運転手やコーヒーショップの店員は「オバマが祖母のお見舞いにハワイ入りするって知ってる?」と、興奮した表情で話しかけてきた。「誰もが地元出身のオバマの勝利を信じきっている」(50代の男性)のだ。

 「黒人のアメリカも、白人のアメリカも、ラテン系のアメリカも、アジア系のアメリカもない。ただアメリカ合衆国があるだけなのだ」−。オバマ氏の有名な一節だ。

 ハワイではアジア系が40%、白人約28%、原住民系9%で、アフリカ系(黒人)は2・5%(2006年米国勢調査)。権力や富が特定の人種に“偏在”しているわけでもない。

 オバマ氏が通っていたハワイの名門校、プナホウ高校の担任だったエリック・クスノキ氏(59)は「全員がマイノリティーで、オバマ氏は多人種・文化の中で育ったことで『世界市民』であることを意識したと思う」と指摘する。オバマ氏も、その著書「The Audacity of Hope」で、「人種の坩堝ハワイで生まれた私には(中略)人種を理由に忠誠心を縛りつけたり、民族を理由に自分の価値を測ったことは一度もない」と書いている。

 だが、一方では黒人であるがゆえに「突発的にやってくる内なる葛藤(かっとう)にさいなまれていた」(自伝『Dreams from My Father』)のも事実だ。ただ、クスノキ氏は、オバマ氏はそんなそぶりを見せず「他人ともめることもなく常に尊敬をもって他人に接していた」と振り返る。

 実は、オバマ氏は演説などで、ハワイ出身であることにそれほど言及していない。地元紙ホノルル・アドバタイザーのコラムニストで、オバマ氏に関する「ドリーム・ビギンズ」の著者、ジェリー・ブリス氏は「大統領候補指名受諾演説でハワイに言及せず、同じ場で演説したホノルルに住む義理の妹もそうだった。地元の人々は快く思っていない」と語る。

 オバマ氏が8月に休暇のため里帰りした際、空港で彼が首にレイ(花の首飾り)をかけたまま写真を撮られることを、取り巻きは嫌った。ブリス氏は「レイをかけた写真はばかげて見え、本土の人に観光地のハワイはふまじめな印象を与える。それに、大統領選を目指す人にとりハワイは重要でもない」と解説する。

 そのオバマ氏の政治スタイルについては、「合意形成」を優先する手法にハワイの影響がみてとれるという。「ハワイには支配的存在となる特定の民族・人種がなく、成功するためには民族の壁を超えて連帯しなければならない。また、ハワイ文化は開放的で受容性がある」からだ。

 地元の人々は「オバマが当選すれば『ハワイ出身』と言い始めるかもしれない」と期待している。

【関連記事】
【米大統領選】投票日までもつかどうか…オバマ氏、祖母を見舞い
【米大統領選】マケイン候補に1票 ブッシュ大統領が期日前投票
【金融危機】金融サミット、ワシントンの博物館で開催へ
NYタイムズもオバマ氏支持 社説で理由掲載
【国際情勢分析】米大統領選、どちらが紳士!?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081025-00000548-san-int