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2008年10月25日(土) 15時01分

<蛇の目ミシン株主代表訴訟>元取締役、巨額賠償勝ち取る毎日新聞

 蛇の目ミシン工業(東京都中央区)を巡る株主代表訴訟で2日、仕手集団代表の恐喝に応じた旧経営陣5人に対して約583億円の巨額賠償を命じる判決が最高裁で確定した。原告は株主であると同時に自らも同社取締役だった鈴木晃さん(74)。会社への愛着を支えに、提訴からの15年間を闘い抜いた鈴木さんは「法令順守に厳しくなった社会の空気が追い風になりました」と長い道のりを振り返る。判決は、経営責任の重さを改めて問いかけている。

 鈴木さんは大学卒業後の1957年に入社。全国に直営店を展開するなど独自の販売体制を持った会社は63年に1部上場を果たし、無借金経営を誇った。だが仕手集団が株を買い占め「鉛筆1本まで丁寧に使った会社が変わった」という。

 鈴木さんは取締役退任後の93年「自分の家のような会社をガチャガチャにされた」という悔しさから提訴した。当初は「内輪の話をなぜ表に出すのか」と社員から批判も出た。1、2審判決は旧経営陣を「脅された被害者」と位置づけて賠償責任を認めず、鈴木さんはがく然とした。

 しかし、提訴から13年後の06年の最高裁判決で潮目が変わった。「不当な要求には法令に従った適切な対応をする義務がある。(旧経営陣の行為は)実質は仕手集団への巨額の利益供与だ」。そう判断した最高裁は、審理を東京高裁に差し戻した。これを受けて08年4月、東京高裁は約583億円の賠償を命じた。今後は賠償金を受け取る会社側と旧経営陣5人が、実際に負担可能な金額や支払い方法などを協議する。

 鈴木さんは「早期に会社を助けられなかった挫折感は残るが、経営責任を認める今の時代に合った判例を勝ち取れた」と安堵(あんど)した表情を見せた。【銭場裕司】

 ◇1、2審の判断がおかしい

 企業法務に詳しい久保利英明弁護士の話 訴えを退けた1、2審の判断がそもそもおかしい。時間がたち過ぎて実効性が欠けた点からも両判決は罪深い。社会の変化が真っ当な最高裁判決を生んだとも言える。「高額賠償で経営が委縮する」と言われるが、委縮とは本来するべき行為をしないことで、脅されて金を払うケースには当てはまらない。最近の判例では経営判断の際にリスクを十分検討したかが問われており、手続きに透明性があれば結果的に失敗しても責任は問われない。

 ◇蛇の目事件と株主代表訴訟

 仕手集団「光進」の小谷光浩元代表(71)=03年に懲役7年の実刑確定=が蛇の目株を買い占め、87年に取締役に就任。「暴力団筋に売却した株を買い戻す」などと脅して約300億円を引き出すなど会社に損害を与えた。小谷元代表に対する株主代表訴訟では約939億円の賠償責任が認められたが、元代表は自己破産している。

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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081025-00000052-mai-soci