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2008年10月25日(土) 11時07分

金融危機で激化「新興不動産VS銀行」産経新聞

 世界的な金融危機に伴う「信用収縮」で、危ない融資を絞り込みたい銀行と、何とか融資を引っ張らないとつぶれてしまいかねない新興不動産会社の“攻防”が激化している。中小企業に対する「貸し渋り・貸しはがし」問題も顕在化しており、年末に向け、バタバタと資金繰りに行き詰まり、倒産が急増しかねない状況だ。

 「平成20年3月期決算で最高益を達成したのに金融機関の協力が得られなかった。断腸の思いだ」

 今年8月に破綻(はたん)した東証1部で広島市を拠点とする不動産会社アーバンコーポレイション(広島市)の房園博行社長は、東京証券取引所の記者会見で悔しさをあらわにした。

 9月に破綻した横浜市の中堅不動産開発会社エルクリエイトは、第三者割当増資で苦境の打開を目指したが、引受先が払い込みの資金を調達できずに頓挫。自らも銀行からの融資を断たれたことが致命傷となった。

 大手証券アナリストは「業歴の浅い新興不動産は信用がなく、増資に失敗すれば、まず融資など受けられない」と指摘する。

 昨年夏のサブプライムショックによる金融不安で、都心部を中心にミニバブル化していた不動産市況が悪化。サブプライム関連の損失を被った投資ファンドの資金流入が細ったことも影響し、地価回復やマンションブームに乗って手を広げてきた新興不動産会社は、苦境に追い込まれた。

  さらに9月に米証券大手リーマン・ブラザースが破綻し、「不安」は「危機」へと発展した。金融機関同士が資金を融通し合う短期金融市場では、破綻リスクにおびえ、資金の出し手がいなくなる「信用収縮」が深刻化。お金の流れが停滞し、新興不動産は「苦境」から「窮地」に陥った。

 10月には、有利な運用利回りで人気を呼んでいたJリート(不動産投資信託)が初めて破綻に追い込まれる。

 「取得する予定だった物件の購入資金の調達にめどがたたず、55億円の違約金が発生した」

 東京地裁に民事再生手続きを申請し破綻した東証上場のJリートを手掛けるニューシティ・レジデンス投資法人の新井潤代表は9日の会見で、倒産の理由に、銀行の融資姿勢の厳格化を挙げた。

 リート全体の値動きを示す東証REIT指数はこの日、史上最安値まで下げた。みずほ証券の石沢卓志・チーフ不動産アナリストは「初めての破綻でリートへの信頼が低下し、投資家が離れてますます値下がりする可能性がある」と警告する。

 金融危機は新興不動産と同様に「信用力」に劣る中小企業も直撃した。1990年代後半から2000年代前半にかけての日本の危機で深刻化した「貸し渋り・貸しはがし」の再燃だ。

 トヨタ自動車のおひざ元で、これまで好景気だった名古屋商工会議所が運営する中小企業相談所では、「資金繰りが苦しい」との相談が急増しているという。

 中小企業向け経営コンサルタント会社の社長も「かつての貸し渋り・貸しはがし批判にさらされた銀行は、つぶれそうな会社ではなく、黒字で余裕のある会社から優先的に融資を回収している」と証言する。

 日銀の統計によると、今年8月末の中小企業向け融資残高は前年同月比1・6%減の178兆6540億円に目減りしている。

 こうした事態を受け、中川昭一財務・金融担当相は今月15日に銀行トップらを集め、中小企業に円滑な資金供給を行うように要請。全国銀行協会も21日に積極的な融資を行うように申し合わせる異例の対応をとった。

 もっとも、全銀協の杉山清次会長(みずほ銀行頭取)は同日の会見で、「貸し渋りをしているという意識はなく、貸せないところには貸していないということだ」と、真っ向から貸し渋り批判に反論。その上で「(バブル崩壊後の)不良債権問題のような状況を二度と作りたくない」と、融資姿勢を厳格化させていることについて理解を求めた。

 実際、中小企業や建設業向けの融資を多く抱える地銀などの地域金融機関では、不良債権の増加傾向が鮮明になっている。野村証券金融経済研究所によると上場地銀87行では、今年4〜6月期の焦げ付きや回収不能に備えた貸し倒れ引当金の積み増しなどの「与信コスト」が、すでに前年同期の約2・3倍の約1520億円に膨らんだ。

 9月以降も、金沢市の中堅ゼネコン真柄建設や宮崎県最大手の志多組など地方の有力企業が相次いで破綻するなど、企業倒産は増勢を強めている。東京商工リサーチによると、9月の建設業の倒産件数は前年同月比41・1%増、不動産業も30・5%増に達しており、与信コストがさらに膨張するのは避けられない。

 さらに、「泣きっ面にハチ」(地銀関係者)のように、世界的な株安が進行し、多額の有価証券評価損も発生。9月中間決算の業績予想の下方修正に追い込まれた上場地銀は30行以上に上る。

 「いくら政府や全銀協から要請があっても、おいそれと融資を増やすことなどできない」というのが、地域金融機関の現状だ。

 経済の“血液”であるお金の流れが目詰まりを起こせば、経済活動は停滞し景気悪化に拍車がかかるのは必至だ。さらに「信用収縮→倒産増加→銀行の不良債権増大→信用収縮に拍車」という“負の連鎖”に陥る懸念もある。

 最も企業の資金需要が高まる年末を控え、新興不動産や中小企業の危機感は頂点に達しそうだ。(山口暢彦)

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