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2008年10月24日(金) 00時00分

携帯窃盗の背景…端末高騰と「白ロムショップ」読売新聞

 ドコモショップなどから携帯電話を大量に盗む事件が頻発している。背景には販売制度の変更によって携帯電話の価格が高くなったこと、および「白ロムショップ」と呼ばれる販売店の存在がある。(テクニカルライター・三上洋)

「906i」「706i」を盗み、「らくらくホン」は放置

10月20日未明に神奈川県平塚市のドコモショップで多数の携帯電話が盗まれた。昨年11月から同様の携帯電話窃盗事件が多発している

 10月20日の未明、神奈川県内で連続3件の携帯電話窃盗事件が起きた。秦野市内で約86台、小田原市内で約84台が盗まれたほか、午前2時35分には平塚市内の「ドコモショップ平塚店」が狙われ、約38台の携帯電話が盗まれている。この事件では警戒中の警察官が犯人を発見し、威嚇射撃するなどして2人の容疑者を逮捕している。

 同様の事件は昨年11月ごろから茨城、埼玉などでも起きており、合せて約40件・約1900台の携帯電話が盗まれている。いずれも携帯電話ショップを狙っており、未使用の携帯電話を盗む手口だ。主に狙われているのはNTTドコモの端末で、少数ながらソフトバンクの端末も盗まれている。

 犯人は転売しやすい人気モデルを狙っているようだ。NTTドコモの中でも人気が高く、かつ価格の高い「906iシリーズ」「706iシリーズ」が盗まれている。逆に価格の安い携帯電話は被害にあっていない。10月20日の事件では、犯人はNTTドコモの906i、706iを盗んでいるが、同じ場所にあった高齢者向けで価格の安い「らくらくホンシリーズ」には手をつけていなかった。価格の高い携帯電話だけを狙っていることがうかがえる。

「海外転売」か「白ロム転売」が目的?

 犯人グループが盗んだ携帯電話を、どのように転売・現金化しているのかはわかっていない。筆者が考えるに、2つのルートがありそうだ。

 1つは海外への転売だ。NTTドコモやソフトバンクの携帯電話は、海外で「高機能な日本製携帯」として人気がある。ただしそのまま持ち出しても、海外の携帯電話会社では利用できないため、「SIMロック解除」と呼ばれる改造が必要だ。1つの可能性として、犯人グループは改造したうえで、海外へ持ち出して転売しようとしていたのかもしれない。

 もう1つ考えられるルートは、国内の「白ロムショップ」への転売だ。白ロムとは電話番号が入っていない携帯電話端末のことで、インターネットを中心に白ロム専門のショップが多数ある。NTTドコモとソフトバンクでは、契約データの入っているSIMカードを差し替えるだけで、すぐに携帯電話を変更できる(auではショップでの登録が必要)。そのため、白ロムショップで携帯電話を購入する人もいる。犯人グループは盗んだ携帯電話を、国内の白ロムショップに持ち込んでいる可能性がある。

白ロムショップが人気になる理由

 この白ロムショップでの端末価格が高騰している。理由は下の通りだ。

●販売制度変更による価格高騰
 2006年から2007年にかけて各社が携帯電話の販売制度を大きく変更した。これは販売奨励金(インセンティブ)を減らすための変更で、以前よりも携帯電話の価格が高くなった。NTTドコモの携帯電話を例に取ると、以前は新製品でも3万円前後だったものが、現在では5万円前後で販売されている。この影響で白ロムショップでの価格も高騰しており、NTTドコモの最新モデルが4万円から5万円弱で販売されている。

●白ロムショップの利用者増加
 白ロムショップは以前からあるが、ここ1年ほどで数が増えており、利用者も増えているようだ。これは販売制度変更によって、携帯電話が事実上の「2年縛り」になったことが影響している。携帯電話各社は、販売制度変更で端末の価格を高くなった代わりとして、24回などのローン払いを用意し、また携帯電話料金を割り引くコースを設定している(NTTドコモの「バリューコース」、ソフトバンクの「新スーパーボーナス」など)。これらのコースでは、同じ携帯電話を2年間使い続けることが前提となっており、途中で機種変更するとユーザーが不利になる場合が多い。ユーザーにとっては、事実上の「2年縛り」だといってもいいだろう。2年間も同じ携帯電話を使い続けたくない人は、2年縛りを回避するために、正規の携帯電話ショップではなく、あえて白ロムショップを利用する人がいる。これが白ロムショップの利用者増加につながっている。

●NTTドコモの端末は他社に比べて高い
 NTTドコモの携帯電話は、他社よりも高く販売されている。NTTドコモ側が提示する価格を、ほぼ全ショップが採用しているためだ。これによりNTTドコモの携帯電話は、長い期間に渡って、高い価格を維持している。以前なら発売から時間がたつほど安くなっていたが、昨年秋の販売制度変更以降は、価格はあまり下がらなくなった。この影響で白ロムショップでも、高い価格が長期間維持されている。犯人は、高値安定のNTTドコモの多機能モデルが、「もっとも転売しやすく金になる」と考えたのだろう。

 このように端末価格の高騰や、白ロムショップの人気などにより、携帯電話の未使用新品が狙われやすい状況になっている。個人の携帯電話を転売目的で盗むことも考えられるので注意したほうがいいだろう。また以前の記事「mixiを悪用、携帯の大量契約詐欺」で紹介したように、携帯電話を大量に契約させて白ロムとして転売する詐欺もあるので注意すべきだ。

http://www.yomiuri.co.jp/net/security/goshinjyutsu/20081024nt14.htm