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2008年10月24日(金) 06時02分

小泉氏も麻生氏も慎太郎氏も使った4200円のビニール傘スポーツ報知

台東区内のホワイトローズ社内で「カテール」をさす須藤会長

 衆院解散・総選挙はいつあるのか? 麻生首相の決断に注目が集まる中、下町の傘メーカーが早くも臨戦態勢に入っている。「ホワイトローズ」社(東京・台東区)が製造する、その名も「カテール」(税込み4200円)は、永田町で知る人ぞ知る選挙必勝傘。小泉さんも麻生さんも愛用というこの傘、一見、通常の透明ビニール傘だが、実はこだわり満載の優れものだ。驚くべきことに、同社の須藤三男会長(85)こそが、ちまたにあふれるビニール傘の「創始者」だという。

 「最近も鳩山邦夫さんの事務所の方が買われていきましたよ。鳩山さんは常連さんです」須藤会長はそう言って「カテール」を開いた。よくある一般のビニール傘に比べ、面積は「1・5倍くらい」。ビニールそのものの質も「厚いし、配合が違う」。通常8本の骨は10本。丈夫な鋼鉄を使用しているという。

 「今は100円ショップでも売るようになったけど、ああいうの全部、ウチのまねですよ」と須藤会長。戦後シベリアに4年間抑留され、1949年に復員。刻みたばこ屋として江戸時代に創業し、その後、徳川家御用達の傘店となった老舗の9代目として家業を継ぐはずだったのだが…。

 「シベリアで通訳なんかをしていたので、アカだの組織の幹部だって疑われてね」帰港した舞鶴では、GHQの取り調べを受けた。新聞記者から追われ、舞鶴から上野までは刑事が尾行。数か月、岩手の親族の元で身を潜めたという。

 東京に戻り、家業を再開したのは50年。ところが、国内の傘流通ルートはすでに確立されており「もう入るすき間がなくて、苦労しました。変わったことをやらなくちゃと思った」。

 当時の傘は、色落ちしやすい綿や絹製が主流。そんな時、米国帰りの友人からもらったビニールのテーブルクロスが新製品のヒントになった。最初に売り出したのは、傘が濡れないようにかぶせるビニールの「傘カバー」。“傘の傘”は大ヒットしたという。

 しかし、大手企業がナイロンの傘生地を販売。再び窮地に陥ったが、今度は骨に直接ビニールを張った、いわゆるビニール傘を開発する。「色つきでファッション性が高く、絹製と同じ2000〜3000円で売れた。今の1万円くらいかな」

 64年、東京五輪観戦で来日した傘業者の依頼で「透明傘」が全米進出。米国でもブレークし、特許も取ったが「まねする人が出てきて、裁判も随分やりました」。そして、ビニール傘は台湾や中国で作られるようになり「安かろう悪かろう」になっていったという。

 しかし、また転機が訪れる。「もっと大きくて、丈夫で透明な傘ができないか?」同じ船でシベリアから帰ってきた共産党の都議候補からの依頼だった。都会のビル風に強く、顔がよく見える選挙用傘を作ったのが二十数年前。警察に納入していた、現場検証で使う傘の骨組みをベースにした。

 演説中、疲れた顔に見えないよう、顔色が少し紅潮して見えるビニールを使用。持ち手はフェイクバンブーで「滑らず破竹の勢いで勝てーる」と験を担いだ。高級そうな傘より、透明が庶民的と愛用する候補もいる。

 2005年の郵政選挙では小泉氏、今年9月の総裁選では麻生氏。石原都知事も使い、洞爺湖サミットでも各国要人用に納入。「選挙のたびに細々と売れていた」が、昨年の参院選頃から売れ行きが伸び、今年はすでに例年の2倍近い500本近くが売れたという。

 「支持者が候補の事務所へ差し入れで持っていくことも多いようです。自民か民主か? どの政党もお客さん。買った人がいい戦いをしてくれれば、それでいい」

特集   NewsX

http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20081024-OHT1T00115.htm