記事登録
2008年10月23日(木) 18時32分

総務省で携帯市場評価会議、「官製不況ではなく構造改革中」Impress Watch


 総務省で23日、「モバイルビジネス活性化プラン評価会議」の第3回会合が開催された。

 国内の携帯電話市場は、昨年9月に発表された「モバイルビジネス活性化プラン」を受け、端末価格と利用料を明確に分ける「分離プラン」や、2年契約を前提とした割引サービスが取り入れられるなど、変化を遂げている。その一方で、8月の携帯電話・PHS出荷数は、前年同期比で48%減と大幅に減少しており、一部では「官製不況」と指摘する声もある。

 「モバイルビジネス活性化プラン」そのものは、国内企業が国際競争力を得ることを最大の目的としており、そのために必要とされる環境作りも目的の1つとなっている。評価会議は、活性化プランが市場に対してどのような影響を与えたか、分析・議論する場となっており、今回はNTTドコモとシャープがそれぞれ市場の現状を紹介した。また同会議構成員で野村総合研究所の北俊一氏からも現在の国内市場に対する分析が披露された。

■ シャープ長谷川氏、「市場縮小の原因は3つ」

 シャープからは、同社執行役員 通信システム事業本部長の長谷川祥典氏が端末メーカーから国内市場の現状について説明したい」と述べ、プレゼンテーションを行った。

 同氏は、「ガートナーによれば、4月〜6月の販売数は前年同期比で約21%減少している。これは、キャリア別に見ても各社同じような傾向にある。また端末出荷台数は今年8月分は前年同期比で約48%減少し、落ち込みが大きい」と述べる。同氏によれば、市場縮小の背景に3つの原因があるという。

 1つめは「新販売方式の導入」。これは、端末価格が明確になったり、販売奨励金なしのプランが導入されたことを示す。その具体例として端末価格を見ると、2007年6月に販売されていたドコモ向けのSH904iは3万450円だったが、1年後の2008年6月に販売されていたSH906iは5万4600円となっていることが示された。その間、料金プランが変更され、高額になった機種ではより割安なプランが選択できるようになったが、ユーザーから見ると店頭価格は2万円以上、高くなったように見える。

 2つめは割賦販売の導入と2年契約だ。端末価格が高くなったことから、ユーザーの短期的な負担を減らすべく登場した割賦販売とほぼ同時期にキャリア各社では2年契約を前提とした割引サービスも導入している。これは、買い換えサイクルの延長を招き、従来の2.2年から2.9年に伸びたという。長谷川氏は「買い換えサイクルが2.2年から2.9年に長期化したことは、年間の台数で見れば、24%減少を意味する」とした。

 また、キャリアでは新モデル発売時期には、旧モデルを売りきって在庫を残さないようにし、新モデルと旧モデルを併売しない方針にあることも原因の1つとされている。このため1機種あたりの納入期間(販売期間)が短くなり、販売機会が失われている。

 長谷川氏は、端末販売数の減少がもたらす影響について、端末メーカーや部品メーカー、販売代理店の業績悪化を招くとする一方、通信キャリアにとっては販売奨励金が少なくなり、営業費用が圧縮できるため利益に繋がるとした。

 このまま端末販売数が減少し続ければどうなるか、長谷川氏は「端末メーカーや部品メーカーは開発投資を抑えなければならず、そのままでは端末の進化が滞ることになる。これまで日本の携帯電話は世界をリードして新たな技術を取り入れてきたが、デバイスの進化にも影響する」と予測した。また、海外の動向として、韓国を例に挙げ「韓国では、一時期、販売奨励金が禁止されたが、2006年に解禁された。進化が止まってきたため、そういった施策を打ったという面もあるだろう」とした。

 これらの現状説明、および予測に対して、一橋大学大学院法学研究科教授の松本恒雄氏は、「グローバルで安価な端末を提供している端末メーカーが技術開発も遅れているという因果関係はあるのか? 先進的なサービスを実現してきたというが、その結果、国内市場は閉ざされたものとなり、狭いパイとなって、頻繁な買い換えをさせてきたが、それを維持すべきなのか?」と強い調子で質問。

 対して長谷川氏は「ノキアやサムスンといった企業は、国別の仕様ではなく、メーカーとして1つの仕様で各国に展開している。日本市場は、海外よりも先進的なサービスを提供してきたが、販売数減少は進化のスピードが落ちることに繋がる」と回答した。

 これについて評価会議座長を務める東京大学名誉教授の齊藤忠夫氏は「今のはメーカーとして敗北宣言ではないのか。日本メーカーがいたずらに世界一を求めた結果、海外で展開できていないのではないか」と詰問調で述べたが、長谷川氏は「決して敗北宣言ではない。日本市場と海外市場には違いがある。海外製端末を日本向けに投入されても、受け入れられていない。もちろん国内だけではダメで、当社でも中国や欧州向けビジネスに取り組んでいる。決して海外ではビジネスできないと敗北宣言しているわけではない」と反論した。

 このほか、生活経済ジャーナリストの高橋伸子氏は「携帯電話の耐用年数はどうなっているのか。昨今、環境問題も議論されているが」と質問。長谷川氏は「メーカーとしては7年保証している。ただ、携帯電話は利用頻度が高い機器であり、一般的な家電ほど耐用年数が長くなることはない」とした。

■ ドコモのバリューコースは奨励金撤廃モデル
 NTTドコモからは、取締役常務執行役員 経営企画部長の加藤薫氏が説明を行った。

 同氏からは昨年11月に導入した、割賦で携帯電話を購入でき、従来より割安な料金プランを選択できる「バリューコース」と、2年契約を前提に端末価格が1万5750円割引き、バリューコースより割高な従来通りの料金プランとなる「ベーシックコース」について、利用動向が紹介された。

 それによれば、6月末時点でバリューコース/ベーシックコースで販売された端末数は、計955万台で、全体の95%にあたる916万台がバリューコース、残り38万台がベーシックコースを選択した。また直近の数値として、9月末時点でのバリューコース累計数は1400万台を超え、ドコモユーザーの1/4強を占めていることが明らかにされた。

 バリューコースでは、端末を購入する際、一括払い、12回払い、24回払いを選択できるが、利用動向としては、一括払いと12回払いが各1/4、24回払いが全体の約1/2になっているという。

 バリューコースでは、従来より割安な料金プランを選択できる。バリューコースが多くのユーザーに選ばれるということは、ドコモの減収に繋がるが、加藤氏は「バリューコースの導入による収入減は963億円。その一方、バリューコースは販売奨励金を撤廃した販売方式であり、営業費用が改善して1840億円の利益増に繋がった。その他の利益を含め、ドコモ全体の2008年度第1四半期の営業利益は、前年同期比926億円増加し、2965億円になった」とした。

 新販売方式の導入について、加藤氏は「バリューコースは買いやすい」「価格は高くなったが分割払いで助かった」「バリューとベーシックのどちらが得かわかりにくい」といった意見がユーザーから寄せられているとした。また、販売代理店からの意見としては「料金プランが多様になって説明が難しくなり、手間も増えた」「分割払いができて、手持ちの予算が少なくても購入できるのは魅力的」「価格が高くなったので、満足してもらえる魅力的な機種が欲しい」といったものがあるという。

 主に分離プランの影響について、ドコモの現状が紹介された形となったが、座長の齊藤教授は「昔は0円端末もあったが、現在は4万〜6万円だ。テレビやデジタルカメラといった製品は、発売から1年も経つと型落ち品として安くなる。これは一定数販売されれば、開発費が回収でき、その後の卸値を下げられるからではないか。携帯電話はなぜ硬直的な価格設定なのか。競争がなく、市場原理が働いていないのではないか」と指摘した。

 これについて加藤氏は「現在は思うように販売が伸びず、開発費を回収しづらいところはあるが、そもそも一定のロットで値段を決めてメーカーから調達している。追加するときに安く納入してもらえる場合もあるが、現在は、プラットフォームの共通化などで開発コストを抑えるよう努力している」と説明し、現状は徐々に携帯電話の価格が下がる仕組みではないが、端末価格を下げる方向で努力しているとした。

 構成員の松本氏は「バリューコースで買いやすくなっている一方、販売数が減っているのはなぜか」と問うと、加藤氏は「正直言って分析は難しいところだが、昨冬にリリースした905iは機能強化に努めたモデル。一方、今夏の906iは、905iほど大幅な機能向上はなかったということも影響しているのではないか」とした。

 野原氏が「誰かが『奨励金を廃止しろ』と言ったわけではないが、3万円で販売されていたものが5万、6万になると厳しく感じる」と指摘すると、加藤氏は「905i発売時には、いきなり奨励金を0円にするのではなく、8000円値引きを実施した。試行錯誤しているのは事実だが、それが十分な施策になっているかどうかは別の議論」と述べ、ドコモなりにハードランディングを避ける施策を採用しているとした。

■ NRI北氏「官製不況ではなく構造改革の途上」
 北氏からは、調査会社からの視点で現状分析レポートが紹介された。同氏は、成熟化した国内携帯市場では、分離プラン導入以前まで年間4500万台販売されていたことに触れ、「それは本当に必要な買い換えだったのか。正常な数値だったのか。購入して1年経ってから修理できたとしても『1円で販売されているから』と購入していたケースもあるのではないか。モバイルビジネス活性化プランは、一部で“不活性化プラン”とも言われているが、そういった状況は正常ではないと考えて研究会を進めて作られた。現在は、正常値に戻る過程かもしれない。また月次データ、特に対前年同月比は、たまたまその時期販売が膨らんだだけかもしれず。あまりあてにならない」と述べた。

 販売数が落ち込んでいることについては、「ソフトバンクでは、モバイルビジネス研究会がスタートする以前から分離プランを導入していたが、現在は、買い換えようとしていた人が(24回払いの途中で)買い換えられない時期になっているのではないか。今後は、支払い途中で買い換えられない人と、支払い終えて買い換える人が存在することになり、平準化するのではな」と予測。ドコモがバリューコースで奨励金を撤廃したことについて「ドコモは分離プランの精神を全うしようとして奨励金をなかなか付けずに頑張ったのではないか。どのような製品も徐々に値は下がる。そのように調整してもよかったのでは」とした。

 北氏は「ゴールは国際競争力の強化。将来的にクラウドコンピューティングやシンクライアントが携帯機器でも普及すれば、端末販売数よりもサーバーやシステムが発展すれば良いのかといった議論も出てくるだろう。今後どういった面で競争力を強化するか、そのあたりの議論が行われていない」と、将来の展望に対する議論が欠けていると指摘。また、新たな課題として、データ通信端末などとセットで販売される「100円PC」にも触れたほか、分離プランの導入によって端末価格が明示された一方、代金を支払った端末にSIMロックが必要かどうか議論すべきと指摘した。

 北氏からのプレゼンを受け、齊藤教授は「日本市場は小さすぎる。世界の携帯電話が40億台に達する中、その1/40に過ぎないとはあまりに寂しい。たとえばアフリカ市場は今後更なる成長が見込めるだろうが、中国メーカーに取られているかもしれない。モバイルビジネス活性化プランは、2010年に海外で飛躍できるエコシステムを作るという目的があった。現状のような話でぼやいているだけでは進まない」と、携帯業界は更なる対応が必要とした。

 構成員からは「人為的に安くしていた価格のままであれば資源を浪費してしまう。使えない高機能、過剰な機能が搭載されることで、開発費も回収できなくなる。消費行動で選択される端末を提供すべきではないか。今まさに構造改革が起きているのであり、官製不況にはあたらない」とする声も挙がった。

 また、松本教授は「携帯キャリアが回線とサービスと端末をバンドルしていることが一番のネックではないか。そこを分離するのが産業発展になるとすると、キャリアに焦点を当てざるを得ない」とコメント。このほか、野原氏は「キャリアや端末メーカーだけではなく、流通や販売など他の携帯ビジネスに携わる人々に配慮しながら議論すべきではないか」と提案していた。

 評価会議は四半期に一度のペースで開催されており、今後も議論が続けられる見込みだ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081023-00000040-imp-sci