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2008年10月23日(木) 19時13分

ネット上で不気味な波紋 フィンランド銃乱射から1カ月産経新聞

 フィンランド南西部カウハヨキの職業訓練校で男子学生が同級生ら10人を射殺した事件から23日で1カ月。同国ではネット上で銃乱射を予告する“愉快犯”や犯人への称賛が相次ぐなど、事件は不気味な波紋を広げる。昨年にも同様の銃乱射事件が起きており、背景に国際学習到達度調査(PISA)で世界トップ水準を誇る教育制度の弊害を指摘する声が強まっている。(ロンドン 木村正人)

 現地からの報道によると、今回犯行後に自殺したサーリ容疑者=当時(22)=と昨年11月に南部トゥースラのヨケラ高校で生徒ら8人を射殺して自殺した男子生徒=同(18)=は、1999年の米コロンバイン高校銃乱射事件に興味を持ち、ネット上で銃乱射について意見を交換したり、電子メールで連絡を取ったりしていたとみられている。サーリ容疑者は男子生徒と同じ店で銃を購入、犯行時の手口や黒ずくめの服装も同じだった。

 小・中学校だけでなく軍隊でもいじめに悩んでいたサーリ容疑者は2年前に軍紀に反して発砲、除隊させられた。男子生徒も学校でのいじめが原因で反社会的な言動が目立っていた。日常生活の孤独から逃れるため2人は“疑似の友達”を求めて、ネットにのめり込むようになったという。

 若者の鬱病(うつびょう)に詳しい同国立厚生研究開発センターのリンペラ教授(心理学)は「わが国の社会構造はこの20〜30年で急激に変化した。家族や学校、地域のきずなが弱まり、自分の居場所を見つけられない若者が増えた」と指摘する。

 同国では80年代後半から経済自由化と規制緩和策がとられ、農林業から、携帯電話会社ノキアに代表される先端技術などへと産業構造が急激に変化、都市化が進んだ。これに歩調を合わせて教育制度も改革され、94年に「教える」から「子供が考える」教育に転換。経済協力開発機構(OECD)のPISAで好成績を収め、世界の注目を集めた。

 教育問題に詳しいユバスキュラ大学のパルキネン教授は本紙に「改革の結果、思春期に学校で友達をつくる時間が減ってしまった」と語る。小学校の7〜12歳は同じクラスで授業を受けるが、中学校の13〜15歳は子供の自立を促して学習効率を上げるため、日本の大学と同じように自分で授業が選択できる。しかし、共同行動の時間がほとんどなくなり、教師が生徒と接する時間も激減。いじめ防止のために学校は十分な対応がとれていない。

 同国は伝統的に働く女性が多く、男女の就職率格差は6・4%(日本は30%)と世界最小。離婚率(人口1000人当たりの年間離婚件数)は2・7と欧州連合(EU)平均の2・0より高い。働く女性を支援するため就学前の保育施設も普及しているが、子供が親と過ごす時間が減ったという。

 リンペラ教授は「家庭に恵まれない子供にとって、この教育制度は孤独感を深めるなどマイナス面がある」と話し、パルキネン教授も「事件のあと国民は現在の教育制度に強く反対している」という。これに対し、教育省のカリャライネン事務次官は「学校が事件の原因ではないが、学校は事件防止のため重要な役割を果たす必要がある」と述べ、早ければ来年にも教育カリキュラムを再評価する考えを明らかにした。

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