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2008年10月22日(水) 02時32分

<学校選択制>大きな格差、男女比にも偏り…都内28市区毎日新聞

 学区外の小中学校にも通える学校選択制度を巡り、毎日新聞が東京都内28市区の教育委員会を調査したところ、今春の各校の入学率(校区内で住民登録している就学者数に対する入学者数の割合)に、8.1〜326.7%と大きな格差があることが分かった。人気校と不人気校の固定化が進み、区部では新入生が1けたの学校が7校、10人以上20人未満が23校ある。男女の希望者数も偏り、男子が3割未満の中学も出ている。【山本紀子】

 選択制は00年に「個性的な学校づくり」を目標に東京都品川区が取り入れてから都市部に広まり、東京では19区と9市が導入。全国で最も普及している東京の実情を調べた。

 入学率は、その学校が児童・生徒にどれほど選ばれたかを示す。各校の今春の数値を尋ねたところ、品川区では初の小中一貫校となった旧第二日野小が326.7%に達した一方、近隣の小学校は27.8%に落ち込んだ。江東区では、統廃合がうわさされた中学校の入学者が7人となり、わずか20.6%。小規模校を避ける動きは、どの地域にも共通している。

 文教地区にあってクラブ活動が盛んな学校には志願者が集まりやすい。一方、小規模校では廃部やチームを結成できない部も相次ぎ、他校に流れる子も少なくない。

 「荒れている」「いじめがある」のうわさで生徒が減る学校もあり、調査には「風評の影響を受けやすい」(武蔵村山市)との声も出た。

 選択制の課題については、小規模校化が助長される(多摩市)▽学校間の生徒数の格差の広がり(練馬区)−−など、生徒数の偏りを懸念する声が出た。一方、メリットとして「魅力があり開かれた学校づくりが進む」と学校の活性化をあげる教委が多かった。かつて新入生がゼロだった品川区の中学校が、学力強化策を掲げ小中一貫校となってスタートしたところ、今春の新入生は65人に回復した例もある。

 男女比をみると、野球部やサッカー部のない江東区の中学で、男子の割合が29%まで減る一方で、部活の盛んな他校で男子が57%になるなど、一部でアンバランスが生じている。

 選択制については前橋市が、生徒数の偏りなどを理由に、11年度から原則廃止を決めている。江東区も地域と学校の関係希薄化を理由に、小学校での選択は徒歩で通える範囲に限る見直しを行う。

 ◇学校選択制度

 規制緩和のため、97年に旧文部省が通学区域の弾力的運用を認める通知を出し、03年の学校教育法施行規則改正で各教委が選択制を導入できるようになった。06年の文部科学省調査では、小学校で240自治体(14.2%)、中学校で185自治体(13.9%)が導入している。しかし、東京都内のように、行きたい学校を選べる自治体は金沢市や長崎市など少数派。山村の小規模校の活性化のため学区外から入学を認める限定的な選択制が多い。

 ◇解説…「ひずみ」冷静に検討を

 学校選択制度のメリットは、学校が学力強化や生徒指導に工夫をこらすようになることだとされる。確かに導入した地域では、保護者や地域も巻き込んで体験重視型の教育を行ったり、進んで情報公開するなど、変化がみられる。

 一方で、選択制は著しいひずみも生んでいる。少人数の学校は「切磋琢磨(せっさたくま)が難しい」と避けられ、「問題児がいる」とうわさがたてば新入生は激減する。いったん生徒が減りだすと部活動も停滞し、人数の回復は難しくなる。校舎が新しいというだけで生徒が集まる学校もあり、「教育内容で選んでほしい」という教育委員会の思惑は空回りしがちだ。

 小規模の中学では、理科の教員が数学を教えたり、陸上の不得手な生徒が区の陸上大会に引っ張り出されるなどの事態も起きている。江東区や品川区は対策として、小規模校に特別の予算を組んでいる。こうした対策も大切だが、選択制の功罪を冷静にとらえ直す時期に来ているのではないか。【山本紀子】

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