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2008年10月21日(火) 12時04分

【法廷から】同性愛者の32歳男 振られた腹いせ脅迫メール産経新聞

 同性愛者である被害者の男性=当時(33)=への恋愛感情が満たされなかったため、携帯電話で脅迫メールを送り続けたとして、脅迫などの罪に問われた男性被告(32)の初公判が20日、東京地裁で開かれた。

 グレーのズボンを腰まで下ろし、すそをずるずると引きずりながら法廷に現れた被告は、力なく被告人席に座った。

 検察側の冒頭陳述などによると、被告は平成14年ごろから、同性愛者の地位向上を目的としたイベントの開催や執筆活動をしている被害者に、一方的に恋愛感情を持つようになった。

 「同じ性的嗜好(しこう)を持っている人と知り合いたかった」という被告。手紙やメールで「付き合いたい」と交際を申し込んだが、被害者に拒否された。

 それでもあきらめなかった被告は平成16年、被害者が主催するイベントに参加。そこで被害者に無視されたと感じて怒りを覚え、被害者に嫌がらせのメールを送ったり、つきまとうなどのストーカー行為を行うようになっていった。

 今年4月13日から6月9日までに送られたメールは計667通。その中には、「殺すしかない。ハンマーで殴り倒して袋かぶせて引きずり回してやる」などと、被害者に身の危険を感じさせるメールもあった。

 罪状認否では全面的に罪を認めたので、すんなりと公判が進むかと思った矢先に、被告が「被害者にも一部非がある」と発言したことから、検察官の追及は厳しいものとなった。

 検察官「“好意”って、具体的にはどういうこと?」

 被告「恋愛感情だったと思います」

 検察官「迷惑だと思わなかった?」

 被告「罪悪感は感じてました」

 検察官「罪悪感を感じてたのに、送っちゃったわけでしょ? また今後断られたら、(もっと)感情的なメールを送るようになるのでは?」

 被告「振り返ってみて、こういうメールを送ってはいけなかったと思います」

 検察官「あなた、被害者にあてた手紙(今後、被害者に渡される予定)に“複雑な気持ち”って書いてるけど、どういうこと?」

 被告「どんな理由があっても、こういうメールを送ってはいけないという気持ちと、被害者にも一部非があると思うので…」

 検察官「被害者に非がある? あなたの思い通りにいかないからやったんでしょうが!」

 声を荒らげる検察官。被告は、一瞬体をびくっと震わせた。もともとか細い声が、ますます小さく、聞こえづらくなっていった。

 検察官「あなたの気持ちが尊重されなかったのは、当然のことなんじゃないの? それまで再三メールを送ってたわけでしょ?」

 被告「具体的にどれくらい送ってたんでしょうか?」

 検察官に逆質問した被告。その瞬間、それまで黙って双方の話を聞いていた裁判官が、すかさず厳しい口調で間に入った。

 裁判官「あなたが質問する場合じゃないよ!」

 検察官「あなた、(被害者との関係が)自分の思い通りにいかないことに腹を立てているのでは?」

 被告「私にはわかりません」

 検察官「被害者が無視する、それ相応の理由があったんじゃないの? 被害者の対応は当然のように思えるが、そう思いませんか?」

 被告「正しいことをおっしゃっていると思います」

 検察官「そうじゃなくて、あなたはどう思っているんですか」

 沈黙する被告。被告人席に立ったまま、だだをこねる子供のように、体をくねくねと動かしていた。

 被告が黙っていることに業を煮やしたのか、裁判官が口を開いた。

 裁判官「今のは『答え無し』なんですか?」

 被告「…。無視されても仕方なかったと思います」

 長い沈黙の後、被告はうなだれたまま短く答えた。

 振られた腹いせに、相手を脅迫した被告。自分を振った相手に、怒りの感情を抱く人もいるだろうが、どうやら被告はその感情を向ける先を間違えてしまったようだ。怒りを相手に向けたところで、報われることはない。ただむなしくなるだけだということを、ようやく悟ったのではないだろうか。

 検察側は懲役1年6月を求刑。判決は今月30日に言い渡される。(徐暎喜)

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