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2008年10月20日(月) 00時51分

関西文化学術研究都市、30年目の挑戦 司令塔不在が生んだ同床異夢産経新聞

 京都府南部の精華・西木津地区に、「陸に上がったタンカー」をほうふつとさせる建物がそびえる。世界最大級の勤労体験施設として、平成15年10月に開館した「私のしごと館」だ。関西文化学術研究都市の国家プロジェクトである。

 約3万5000平方メートルの延べ床面積を持つ、しごと館に投じられた費用は約580億円。独立行政法人、雇用・能力開発機構が運営したものの、年間10億円超の赤字を出し、今年9月1日、民間活力による再生がスタートした。

 運営担当は、大阪のコンベンション事業会社「コングレ」。館の年間収入は1億7200万円で、出費に対する収入割合は1割程度にすぎない。目標は5割程度までの改善だ。

 「学研都市全体でしごと館への来館者が増えるよう知恵をしぼらなければ」

 社長、隈崎守臣は危機感を募らせた。

 ところが、再スタートから3日目の9月3日。政府の「行政減量・効率化有識者会議」は委託期間の終了を待たずにしごと館の業務を廃止し、土地・建物の売却などを検討する方針を打ち出した。

 「再生を軌道に乗せるため全力を尽くすしかない」とコングレ関係者。理想と現実の乖離(かいり)に苦しむ、学研都市の姿を象徴する“事件”だった。

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 元京都大学総長、奥田東らによる「関西学術研究都市調査懇談会」が関西学研都市を提言したのは、30年前の昭和53年9月のこと。1970年代に世界の科学者、経済学者、教育者が一堂に会したローマクラブのリポート「成長の限界」が引き金だった。環境破壊や資源の枯渇、人口増への警告に衝撃を受けたのである。

 昭和62年、関西文化学術研究都市建設促進法が公布され、建設が始まる。関西国際空港の開港した平成6年、精華・西木津地区を中心に学研都市のまちびらきが行われた。

 だが、時期が悪すぎた。まちびらき以降、日本経済はバブル崩壊後の不況に突入していく。キヤノン、住友金属工業、バイエル薬品といった進出企業の拠点が相次いで姿を消した。

 そして昨年12月。進出企業や研究機関の交流活動を促す第3セクター「けいはんな」も109億円の負債を抱え、民事再生法の適用申請に追い込まれた。

 すでに金融機関への弁済を終え、大阪地裁から再生手続き終結の決定を受けたものの、けいはんなの再建は厳しい。

 「『米国発』の金融危機の影響がどう出るか」

 学研都市の関係者は気をもんでいる。

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 学研都市と比べられる存在が茨城県にある筑波研究学園都市。しかし、知名度は筑波の方が高い。その理由のひとつは「司令塔」の違いにある。

 国と茨城県つくば市が開発を進めた筑波研究学園都市に対して、学研都市の財源と権限は3府県8市町の自治体が持つ。 「関西文化学術研究都市推進機構」という調整組織はあるものの、外からは「リーダー不在」に映る。それが求心力の低下を生み、学研都市のアキレス腱(けん)ともなっている。

 精華・西木津地区を構成する木津川市、精華町の場合、各市町域への企業誘致ではライバル関係にある。京都府との連携で中小企業誘致で実績を持つものの、国家規模のプロジェクトや大企業の誘致に力不足の感は否めない。ある財界関係者はつぶやいた。

 「学研都市は同床異夢といわれても仕方がない」

 =敬称略

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