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2008年10月20日(月) 18時36分

株価は経常2割減益まで織り込みか、V字回復期待できずロイター

 [東京 20日 ロイター] 国内主力企業の4─9月期決算発表が今週スタートする。同時に明らかにされる2009年3月期業績予想について、市場では下方修正が相次ぎ、全体での経常減益幅は15─20%に拡大するとの予想が出ている。
 一方で、株価は金融危機を受けて先行してバリュエーション調整を進めたためこの程度の下方修正はすでに織り込んでいるとみる声が多い。ただ、世界的な景気悪化で業績回復時期は先送りされており、業績の急回復は期待できないとの意識は強く、決算発表を機に悪材料出尽くしとはなりにくい。
 <金融危機を受けて減益幅拡大へ>
 東証の集計によると、22日のKDDI<9433.T>、23日の信越化学工業<4063.T>を皮切りに、27日に商船三井<9104.T>、キヤノン<7751.T>(2008年1─9月期決算)、28日にはパナソニック<6752.T>、29日にはソニー<6758.T>、コマツ<6301.T>、新日鉄<5401.T>、30日に任天堂<7974.OS>、31日には三菱商事<8058.T>などが決算を発表する。焦点のトヨタ自動車<7203.T>は11月6日だ。
 米欧が金融機関に対する公的資金注入を決断したことで世界的な金融危機はいったん歯止めがかかり、株式市場は次の課題として景気や企業業績の悪化に向き合うことになる。決算発表を通じて企業業績の悪化の程度を探り、先行して進んだバリュエーション調整との兼ね合いを模索する見通しだ。市場では「4─9月期決算の発表では、2009年3月期見通しの下方修正が相次ぐ」(生保)との見方がコンセンサスになっている。
 大和総研で企業業績見通しを取りまとめているシニアストラテジストの浜口政巳氏によると、直近の見通しを発表した9月4日の段階で2008年度の経常利益見通しは前年度比7.3%減益(対象は銀行・証券・保険を除く東証1部上場の主要300社で構成されるDIR300)。しかし、リーマン<LEHMQ.PK>の破たんを契機とする世界的な金融危機でその後の収益予想は急速に悪化しており「企業サイドの見通し修正やアナリストの見方を織り込んで、足元でも減益幅は10%程度まで拡大している。今回の決算発表が終わるころには15─20%に減益幅が拡大する可能性がある」(浜口氏)という。
 野村証券金融経済研究所は14日付で企業収益見通しの前提を見直し、為替を円高方向に、原油価格を原油安方向に、鉱工業生産を悪化方向に変更した。新たな前提にたって業績予想を見直した結果、15日に2009年3月期の経常利益予想を同6.0%減益(9月8日時点)から18.7%減益に引き下げている(対象は金融を除くNOMURA400)。
 また、15.8%増益を予想していた2010年3月期についても1.7%減益と減益予想に修正。15日付リポートでは企業努力を指摘したうえで「減益は回避できる可能性が残っているが、自然体では減益となる可能性を意識しておく必要がでてきた」としている。
 <商品価格下落による収益下支えは限定的>
 原油など商品価格が急速に下落しており、鉄鋼セクターなどには今期の業績予想上方修正の可能性が出てきたが、広がりは限定的との見方が聞かれる。
 新日本製鉄<5401.T>の連結経常利益予想4500億円に対し、ロイターエスティメーツによる主要アナリストの予測平均値は5228億円(同7.4%減、アナリスト15人)、JFEホールディングス<5411.T>は会社予想4500億円に対しロイターエスティメーツ予測は5073億円(同0.8%増、同12人)、住友金属工業<5405.T>は会社予想2500億円に対しロイターエスティメーツ予測は2723億円(同8.7%減、同8人)。
 ただ、浜口氏は「新日鉄のように価格交渉力のある企業にはコスト減の恩恵が及びやすいが、ここにきての商品価格の下落で値上げ交渉が難しくなるケースもあり、素材セクターすべてが同じように上方修正できるわけではない」と指摘。さらに問題なのが、商品価格の下落が世界景気の悪化懸念を織り込んでいるとみられる点だ。「世界的に需要が減退するなかでは、素材に限らず幅広いセクターで売上げが減少する。これによる収益圧迫のほうが原材料のコストダウンによる収益押し上げ効果より全体としてみれば大きい」(準大手証券)という。
 <株価は下方修正を織り込み済み、業績面の悪材料出尽くしは困難>
 一方で、日経平均が10日に8115円まで調整した局面では主力株のなかにもPBR1倍前後、PERひとケタという銘柄が続出した。金融危機への懸念に加え、ヘッジファンドの換金売りなどファンダメンタルズを無視した需給圧力がかかったためで、市場では「主力株でもPER3倍程度と極端に売り込まれた銘柄が出ている。こうした銘柄はたとえ利益が半減してもPERは6倍で、まだ割安だ」(生保)との指摘がでている。
 三菱UFJ投信戦略運用部副部長、宮崎高志氏は「今回の決算発表を機に明らかになる下方修正については、株価はすでに織り込んでいる。下方修正を材料に、株価がさらに下値を試す展開にはならないだろう」とみている。大和総研の浜口氏も、バリュエーション面では調整済みとの見方だ。
 しかし、企業業績はまだ悪化の途上にある。浜口氏は「企業業績の回復は2010年3月期以降に先送りされる可能性が強く、今回の減額修正では企業業績に関して本格的な悪材料出尽くしには至らないだろう。一段の業績下振れ懸念が残るとみている」と予想している。
 また、全体相場は織り込んでいたとしても、個別にみれば景色は変わる。「今回も個別にはネガティブ・サプライズがありそうだ。世界景気に敏感なハイテクセクターや比較的値持ちのよかったディフェンシブ株などには注意が必要だ」(準大手証券)という。
 また、機関投資家の間で社内にアナリストを抱えて銘柄判断を行い運用の独自性を出そうとする動きが株価に影響を与える可能性もある。「この場合、ファンドマネージャーの方ではすでに業績の悪化を予想してポジションを持っていたとしても、アナリストが判断を売りに引き下げればあらためて売らざるを得ない」(信託)といい、予想以上に株価の下げが大きくなることも考えられる。
 (ロイター日本語ニュース 松平陽子 編集 橋本浩)

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