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2008年10月20日(月) 14時00分

「金融市場崩壊はテロ」説が登場:背景には「ネット金融市場の脆弱性」WIRED VISION

テレビ史上でも1、2を争う、なんとも非現実的な瞬間というべきだろう。アーカンソー州の前知事マイク・ハッカビー(Mike Huckabee)氏が、このところわれわれが経験している市場の激烈な変動の背景にはテロリストが暗躍していると示唆したのだ。[Huckabee氏は大統領選に出馬した共和党の政治家で、福音派の牧師でもある。現在、FOXテレビの大統領選コメンテーター]

Huckabee氏は[上に動画を掲載したFox Newsの番組において、]こう語った。

「金融市場にいる友人がこの12日間を慎重に分析した結果、市場操作が行なわれた気配があると指摘した。毎日最後の30分に、異常に大量のコンピューター取引が殺到している。友人は、経済テロが現在の状況に多大な影響を及ぼしている可能性を示す、現実的な証拠だと考えている。(中略)この現象の背後にいるのはインターネットのページを読んでいる一部の人々ではなく、金融機関を所有している人間に違いない」

そして、Huckabee氏が[俳優の]チャック・ノリス(Chuck Norris)氏に意見を求めた結果、話はさらに大きく広がった。

「経済のネット・フォーラムに、テロが存在すると考えたことがありますか」と、Huckabee氏は言う。

「ええ、もちろん。確かに」と、Norris氏が答える。

われわれは経済テロの可能性を排除するものではない。しかしだからといって、取引終了間際の1時間に売買が殺到することによってこの論が証明されるものではない。

われわれがインデックスファンドから利益を得ることを、テロリストたちが望んでいるとでもいうのだろうか。しかもこの論で、米国の赤字財政や消費支出の鈍化、自動車産業の衰退などについて説明できるわけでもない。

ただし、Huckabee氏の論は極端だとしても、データを改竄し間違った情報を広めることで市場をさらに混乱させようとする動きの可能性について懸念する人々は存在する。

その一例として引用されるのが、フランスの金融機関ソシエテ・ジェネラル(Societe Generale)の元トレーダーでハッカーでもあるJerome Kerviel容疑者だ。同容疑者は2008年1月、基本的にたった1人で世界的な金融パニックを引き起こした。

まず、Kerviel容疑者は、無茶でリスクの高い取引を行なった。それから、自社の従業員ネットワークをハッキングして、自分の痕跡が残らないようにした。

同容疑者は、「自分のめちゃくちゃな取引を検出するはずの自動警告システムを働かなくさせた。そして、口座記録にアクセスできるパスワードを盗み、自分の取引記録を隠すために書き換えた。さらに、自分の行動が本物に見えるように、架空の取引に関する偽の電子メールも作りあげた」

[同容疑者は、許容限度を超えた先物での巨額取引を行なっていたが、この事実は上司も認識しており、利益が上がっている限りは見て見ぬふりだったと主張している]

Societe Generaleは「総額70億ドルを超える」損失を被った。だが、それより重大だったのは、その後の市場急落の引き金となったことだ。あまりの惨状に、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、各銀行へのオーバーナイト・ローンの利率を緊急に引き下げざるをえなかった。

さらに今年9月には、別件の株価操作に関して、ハッカーたちが2年の実刑判決を受けている。[2006年から2007年にかけて、インド在住の3名が、オンライン・トレーダーたち数十人の口座をハッキングして大量に株を購入することで、所有していた株で儲けた事件]

Kerviel容疑者1人の仕業でさえ、広範なパニックを引き起こしかねなかった以上、金融テロを心配する情報機関の担当官たちの不安は理にかなっていると言えるだろうか。

まあ、こういう人々は筋金入りの苦労性だ。悪夢のシナリオを描き、その対策を考え出すことで報酬を受けている。オンラインゲーム『World of Warcraft』のなかのテロリストに関してさえ、いらだちを示しているぐらいだ[リンクされている記事によると、米軍は、オンラインゲーム上でテロリストたちが訓練を行なう可能性を懸念している]。

オンラインゲーム上よりも、金融システム上のテロのほうが、多少は真実性がありそうだ。Chuck Norris氏的な妄想の色合いが多少にじんでいるとしても。

{この記事には別の英文記事の内容も統合しています}

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081020-00000003-wvn-sci