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2008年10月19日(日) 16時58分

EU首脳会議、国際金融システムの再生は可能か産経新聞

 崩壊の危機に直面している国際金融システムの再生は可能か。米国に端を発した金融危機は戦後でも最大の規模の様相を呈して世界各地に広がり、米欧各国の首脳は懸命に事態の収拾に取り組んでいる。米国が公的資金の注入を柱として国内での対策に乗り出す一方、欧州連合(EU)の議長国であるフランスのサルコジ大統領はEU首脳会議で欧州としての対応を主導した。

 EU首脳会議は15、16の両日、EUの本部があるベルギーの首都ブリュッセルで開かれ、金融危機への対応を協議した。論点は、国際通貨基金(IMF)を中心に米国が主導する国際金融システムの見直し。今回の金融危機の世界的な広がりを重視してのことだ。首脳会議では、国際金融秩序を根本から完全に改革することが必要と強調した。米国がこれに応じるかが焦点になりそうだ。

 ブリュッセルからの報道によると、ルクセンブルクのユンケル首相は「現在の機構は今回の危機に対応できなかった」と批判。英国のブラウン首相も「IMFなどの国際金融システムは旧弊化し、改革が急務だ」と述べた。そのため、EU主導による再構築を提唱し、ドイツのメルケル首相は「11月にも主要8カ国(G8)と新興国による首脳会議の開催を求める」と語った。

 グローバル化が加速し、世界経済を動かす“プレーヤー”に、いわゆる先進国として走ってきた欧米諸国だけでなく、中国とインド、ロシア、ブラジルの「BRICs」と呼ばれた新興国も加わる時代になって、今回の金融危機は戦後の同様の危機と比べても影響は大きい。米欧主導で対策を打ち出そうにも、経済成長を続ける新興国の意向を無視することはできない状況が鮮明になっている。

 EUが主張する国際金融システムの再構築とは、戦後の数十年にわたり欧州の復興を柱に、世界の市場の安定した発展の基盤となった「ブレトンウッズ体制」をどうとらえるかにある。欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は14日にニューヨークでの講演後、「必要なのはブレトンウッズ体制に戻り、規律を重視することだ。世界の金融市場は規律を必要としており、規律がなければ、市場経済や金融市場の機能は信頼されない」と語り、ブレトンウッズ回帰を訴えた。

 ブレトンウッズ体制は1944年に米東部ニューハンプシャー州のブレトンウッズで開かれた通貨金融会議で打ち出された戦後の国際金融システムで、IMFなどが創設され、その体制は現在も続いている。サルコジ大統領やブラウン首相の発言から、戦後60年以上も続いてきた体制をいまこそ抜本的に見直そうという強い意欲が伝わってくる。

 しかも、かつての規律や精神に立ち戻るだけではなく、現代の世界に応じた新たな規律、統制を確立していくことが金融危機から真の意味で脱却することになるという見方だ。だが、それだけの大がかりな見直しはできるのか。サルコジ大統領は18日にワシントン郊外のキャンプデービッド山荘を訪れ、ブッシュ米大統領と会談する。欧州委員会のバローゾ委員長も同行し、「ポスト戦後」の国際金融システムの構築に向けた米欧サミットを思わせる事態となった。

 G8の各国首脳は、危機によって明らかになった欠陥を改善するため、世界の金融セクターの規制強化と制度変更の必要で一致している。自由な企業活動や金融市場を重視し、規制緩和を続けた先進国が金融危機を契機に大きく方向転換する可能性が出てきたとも指摘される。戦後世界は数々の政治の世界で妥協をへて発展してきた。だが、経済の実態との乖離が鮮明になったいま、戦後の国際体制は歴史的な転換点を迎えているようだ。

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