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2008年10月19日(日) 15時45分

【轟悠の素顔】一路真輝と過ごした7年半産経新聞

 「終演後に話がある」

 宝塚歌劇団に入って3年目の昭和62年12月、宝塚大劇場(宝塚市)で公演中だった轟は、開演前にプロデューサーから突然そう声を掛けられた。

 だが、いくら考えても怒られる理由が見つからない。落ち着かないまま公演を終え、プロデューサーが待つ部屋に向かった。「どんな用件ですか」。恐る恐る話しかけると、意外な言葉が返ってきた。

 「来年7月から雪組に異動してもらいます」。ショックで目の前が真っ暗になった。「なぜ私なんですか」。やっとの思いで理由を尋ねたが、プロデューサーは何も答えない。楽屋に戻ると、仲間と離れることが悲しくて涙が溢(あふ)れ出た。

 翌年7月、雪組に移ったが、辞令から半年以上が経ても気持ちは引きずったまま。孤独感にも襲われた。

 そんな時、後に同組の主演男役となる一路真輝(平成8年退団)と出会う。一路は轟の3年先輩。年次が近く、同じ男役だった2人が仲良くなり、次第に雪組に溶け込むことができた。

 もっとも、2人は役者として正反対のキャラクターだった。シャープで骨太な男が似合う轟に対し、一路は柔和で優しい「王子様タイプ」。声質も得意とする役柄も違った。だが、不思議と馬が合った。

 「一路さんと『お互いにないものねだりだね』って話したことがあるんです。私には決して真似(まね)できないものを持っていらして、常に憧(あこが)れていました」

 決して偉ぶらない先輩で、セリフや動作のタイミングを厳しく教えてくれたかと思えば、公演中に急に「あの場面の振り付けはどんなだったかしら?」と言い出すことも。

 けいこをこっそり抜け出し、「宝塚ファミリーランド」(平成15年閉園)に遊びに行き、ウオータースライダーなどに乗ってずぶ濡(ぬ)れになりながら、はしゃいだこともある。

 平成8年3月、一路が退団の時を迎えた。宝塚大劇場で行われたサヨナラ公演「エリザベート」は、忘れがたい思い出になった。衣装替えの少ない役だった轟は、役者生活で初めて、他の出演者の手伝いを経験した。

 一路が幕あいに舞台袖に下がると、衣装部のスタッフに代わってカツラにクシを入れたり、衣装を着替えるのを手伝った。顔に浮き出た汗をタオルで拭(ぬぐ)いもした。ともに過ごした7年半の恩返しの気持ちを込めた。

 「タイプの違う人間同士でも、心を持って接してくださる人には、心で返したくなるものなんですよね。一路さんは、そんな人間関係の根本を教えてくれた人でもありました」

(敬称略)

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