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2008年10月19日(日) 12時43分

「銀座線」が土木遺産に 東洋最古の地下鉄産経新聞

 大正末期から昭和初期にかけて造られ、東洋最古の地下鉄トンネルとなる東京メトロ銀座線の浅草〜新橋間の土木構造物が、建設業や官庁などでつくる土木学会(東京都新宿区)から平成20年度の「選奨土木遺産」に認定された。国内で初めてH型鋼を大量に使用した鉄鋼框(かまち)構造を採用したことや、末広町〜神田間の神田川の川底を通過するトンネルなど貴重な土木構造物が多く存在することが認定理由という。

 11月18日に土木学会から認定書と銘板が贈られ、浅草、上野、新橋の3駅に設置される予定だ。東京メトロは「国内初の地下鉄として多くの技術的な挑戦があったと思うが、今もなお現役として活躍する銀座線を改めて評価していただきうれしく思う」と喜んでいる。

 銀座線は渋谷〜浅草間の14.3キロ。民営の東京地下鉄道が昭和2〜9年に浅草〜新橋間8.0キロを開業。同じく民営の東京高速鉄道が13〜14年に渋谷〜新橋間6.3キロを開業し、同年9月から直通運転が始まり、現在の形になった。16年には帝都高速度交通営団(営団地下鉄、現東京メトロ)に譲渡された。

 銀座線のほかに鉄道関係では、JR左沢(あてらざわ)線とフラワー長井線の最上川橋梁(きょうりょう)(山形県寒河江市、中山町、白鷹町)▽心斎橋駅舎など御堂筋線の地下駅群(大阪市中央区)▽未完成に終わった今福線のコンクリートアーチ橋群(島根県浜田市)▽山陽線の三石の煉瓦拱渠(れんがこうきょ)群(岡山県備前市)−が選ばれた。

 選奨土木遺産は歴史的土木構造物の保存を目的として平成12年に設立された制度。毎年15件程度が選ばれ、鉄道関係ではこれまでに、阪急大宮駅と大宮〜西院間の地下路線(京都市)▽惣郷川橋梁(山口県阿武町)▽釜石線の達曽部川橋梁、宮守川橋梁(宮城県宮守村)▽狩勝峠鉄道施設群(北海道新得町)▽梅小路機関車庫(京都市)▽宗谷線剣淵〜士別間の鉄道防雪林(北海道剣淵町)▽旧大日影トンネル、旧深沢トンネル(山梨県勝沼町)▽吾嬬(あずま)橋(群馬県六合村)▽在来線用の関門トンネル(北九州市、山口県下関市)▽箱根登山鉄道(神奈川県小田原市、箱根町)−がある。

 ■「地下鉄の父」早川徳次の執念

 今回、土木遺産に認定された銀座線浅草〜新橋間は、「地下鉄の父」と呼ばれる民間人の早川徳次(1881〜1942)が造り上げた。「地盤が弱く東京では無理とされた地下鉄の将来性を信じ、出資者を募ってベンチャーを立ち上げた人。早川の執念はすごかった」(メトロ文化財団)という。

 早川は大正3年に鉄道院嘱託として視察したロンドンで地下鉄の事業化を決意。帰国後、カウンター(計数器)代わりの白豆と黒豆をポケットに入れて街頭に立ち、東京の交通量調査を行ったという逸話が知られている。大正14年9月27日に現在の上野駅不忍口付近で起工式が行われ、昭和2年12月30日に東洋初の地下鉄として浅草〜上野間2.2キロが開業した。

 開削工法といわれる“露天掘り”だったとはいえ、手探り状態だった地下鉄工事は困難を極めたという。帝都高速度交通営団史には「機械力といっても頼りになるものが少なく、まるで手づくりであった。着工後、地盤の崩壊、ガス管の破損による発火、沿道住民からの苦情などには随分と悩まされた」と記されている。

 開業した地下鉄は、10銭硬貨を入れると遮断棒が回転するターンスタイルと呼ばれる自動改札を導入したことや、間接照明を用いた木目調の豪華な内装を備えた車両などが話題を集めた。当初は物珍しさもあり盛況だったが、市電やバスに押されて利用者が増えず、目標にしていた都心部の新橋までの延伸が危ぶまれる。

 早川はあの手この手で資金集めに奔走した。沿線デパートに出資を持ち掛け、「三越前」のように“スポンサー”の名前を冠した駅が現れた。浅草と上野駅前にビルを建て食堂と廉価販売店を経営、駅構内にも次々と店舗を設置した。今の「ネーミングライツ」や「エキナカビジネス」の走りだった。

 こうした苦労が実り、7年間かけて万世橋(後に廃止)、神田、三越前、京橋、銀座、新橋と徐々に延伸していった。

 ところで80年以上前に造られた構造物が今も現役で耐え得るのは、資金繰りに苦しみながらも工事費を惜しまなかったことが大きい。良質のコンクリートを使い続けたほか、短い編成の列車しかなかったにもかかわらず、将来の需要を見越して何倍もの長さのホームを用意していたという。

 この「先見の明」には驚かされる。

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