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2008年10月19日(日) 02時31分

<原発被ばく>悪性リンパ腫労災認定 厚労省方針毎日新聞

 原発で仕事中に被ばくした沖縄県うるま市の喜友名(きゆな)正さん(当時53歳)の悪性リンパ腫による死亡について、淀川労働基準監督署(大阪市)は、いったん出した不支給決定を取り消し、労災認定する方針を遺族に伝えた。厚生労働省が「慎重に検討する事項」として専門家の検討会を開くなど協議していた。被ばくに起因するリンパ腫で労災認定されるのは初めてで、被ばく労働者の補償への道が広がりそうだ。

 悪性リンパ腫は、白血病と同様のリンパ系腫瘍(しゅよう)の一つ。被ばくによる労災認定基準に対象疾患として例示されていない。

 喜友名さんは97年、原発の機器などを傷つけず放射線や超音波などで検査する「非破壊検査」社の下請け会社(大阪市東淀川区)に入社。会社の被ばく記録では97〜04年の6年4カ月間、全国の加圧水型原発(泊、伊方、高浜、大飯、敦賀、美浜、玄海)や青森県六ケ所村の再処理工場で検査業務に携わり、計99.76ミリシーベルトの放射線を浴びた。類縁の病気である白血病の認定基準に照らすと3倍以上の被ばく量だった。

 喜友名さんは04年5月に悪性リンパ腫と診断され、抗がん治療などを受けたが05年3月に死亡した。妻末子さん(57)が労災補償を請求したが、淀川労基署は06年9月、不支給を決定していた。

 厚労省は検討会を設置し国内外のリンパ腫の疫学調査の事例などを精査。その結果、喜友名さんの悪性リンパ腫は放射線被ばくと因果関係があるとして、「業務上(労災)とするのが妥当」との報告書をまとめた。これを受け、淀川労基署は16日、末子さんに労災認定の方針を伝え、補償額決定関連の申請を提出するよう求めた。

 末子さんは「白血病の認定基準の3倍も被ばくして認定されなかったら、誰が認定されるのと思った。同様のがんで手続きしていない人がいるのではないか。後に続く人を応援したい」と話した。

 被ばく者支援団体などによると、把握している原発・核燃料施設労働者の労災申請は喜友名さんを含め18件で認定は9件。うち5件が白血病で、3件は急性放射線症、1件が多発性骨髄腫という。【大島秀利】

 ◇データ踏まえた判断基準定着へ

 被ばくに伴う労災の認定基準の対象疾患として例示していない悪性リンパ腫の原発労働者を、厚生労働省が初めて労災認定する。04年にも例示外の多発性骨髄腫を労災認定しており、いずれも国内外の疫学データなどを踏まえた判断基準を定着させる流れとみられる。今後、悪性リンパ腫などを認定基準に明記し、発症した労働者に分かりやすく、申請が容易になるよう改善が求められる。

 悪性リンパ腫、多発性骨髄腫はともに、既に認定基準がある白血病と類縁の血液のがんと、医学界でみられている。悪性リンパ腫を巡っては、広島・長崎の被爆者で被ばく線量が増加すると発症率が上昇するなど、放射線と発症の因果関係を示す複数の疫学データがある。多発性骨髄腫も同様だ。

 日本の原爆症認定や米国の核実験被ばく者の補償制度はリンパ腫や多発性骨髄腫を対象にしている。こうした調査や制度から考えれば、今回の厚労省の判断は当然といえる。【大島秀利】

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