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2008年10月19日(日) 02時31分

<農地違反転用>市町村に無力感 実態に指導追いつかず毎日新聞

 農地が毎年7000〜8000件も正規の手続きなしにつぶされ、建設残土置き場や駐車場になっている−−。農林水産省の調査で明らかになった「違反転用」の実態は、農地法の規制が骨抜きにされていることを浮き彫りにした。農地保全の役割を担う市町村の農業委員会には、都道府県の指導力を疑問視する声がある一方、違反が多すぎて指導が追いつかない現実への無力感も漂う。

 東京への通勤圏で、農地も多い千葉県北西部の市。農業委員を18年間務めた専業農家(71)は、あきらめ顔で言う。「違反転用を全部指導するのは無理」。悪質なケースを年間3〜4件指導するが、ささいなものまで含めると、違反件数ははるかに多く、追い付かないという。

 よくあるのは駐車場にしてしまうケース。違反を指摘すると、農家や不動産業者は決まって「法律(農地法)を知らなかった」と釈明する。「知らないはずはないのだが、そう言われたら『これからは気をつけて』と言うしかありません」。指導に従わないとして県に是正勧告を求めたケースは、記憶にないという。

 一方、埼玉県久喜市では違反転用がほとんどない。市農業委員会の並木源栄(もとえ)会長(65)は「県は対応が遅い」と話す。

 同市農業委は農業委員17人に加えて25人の協力員を農家から募り、常時農地を見回っている。水田に土を入れるなど不審な動きがあれば、1、2日で指導に入る。並木会長は「違法業者から『指導が早くて原状回復に手間取らない』と感謝されたこともある」と苦笑する。

 並木会長によると、多くの自治体の農業委は動きが遅く、違法状態を確認するまでに最低1週間はかかり、県への報告はその後になる。「違法状態を1週間放置すれば原状回復に1カ月はかかる」。県が指導する時点では絶望的だという。

 内容に疑問が多いため「不適当」の意見を付けて送った転用申請を、県が許可しようとしたこともあった。「農家じゃない役人に現場は分からない」。並木会長は、型通りの書類審査で済ます県の姿勢も追認の背景にあると考える。

 ただ、こうした久喜市のケースは例外的だ。【田村彰子、井上英介】

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081019-00000008-mai-soci