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2008年10月18日(土) 03時39分

年金改ざん レセプト抜き隠ぺい 無資格者に医療費毎日新聞

 厚生年金をさかのぼって脱退させる不正な「遡及(そきゅう)脱退」を隠すため、各地の社会保険事務所が無資格者となった被保険者の診療報酬を政府管掌健康保険から肩代わりした上、不正が発覚しないように該当する診療報酬明細書(レセプト)を抜き取っていたことが、職員らの証言で分かった。年金保険制度のみならず、医療保険制度もゆがめてきた実態が明らかになった。

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 中小企業が厚生年金を脱退した場合、被保険者の社員は政府管掌健康保険もぬけることになる。脱退時にさかのぼって国民健康保険に加入しなければ、この期間は無資格受診となる。

 総務省年金記録確認第三者委員会が社保事務所の処理で不適正と断定した66件(8日現在)のうち、17件は標準報酬月額(給与水準)の引き下げ、50件(1件は重複)は遡及脱退だった。50人は1カ月〜2年さかのぼって脱退させられ、ほとんどの人はこの間の診察は無資格受診となっていた。

 社保庁の調査では標準報酬月額の記録改ざんの恐れのある記録は延べ約144万件に上ることから、遡及脱退も相当数に上るとみられる。

 この遡及期間中、社員は健康保険証を使って受診しているため、社保事務所は本来なら無資格受診だったとして、病院側に診療報酬の返還を求めた上、社員が全額負担しなければならなかった。だが職員らによると、多くの経営者は社員に脱退を知らせず、社保事務所も不正の発覚を恐れて病院側に返還請求をしなかったという。

 さらに、病院から送られるレセプトに保険受診の記録が残るため、該当するレセプトを抜き取った上で別管理し、発覚を防いでいた。レセプトが電子化された02年度より前はこうした不正操作が容易にできたという。

 複数の職員や元職員は毎日新聞の取材に「徴収担当者から保険給付やレセプト点検の担当者に『徴収絡みだから』と伝え、点検時に抜いてもらった。抜いたレセプトは滞納処分票に挟むなど別管理にした。事務所で月に1、2件このような処理をしていた。診療報酬の返納を求めると不正処理が発覚するし、被保険者に気の毒。慣行だった」などと証言した。

 社保庁年金保険課は「不正については聞いたことがないが、問題が顕在化すれば個別に対応、調査しなければならない」と話している。【野倉恵】

 ◇ことば レセプト

 医療機関が保険者(政府管掌健康保険の場合は社会保険庁)に対し、患者の自己負担分以外の診療報酬を請求するために提出する投薬や診療の内容を記した明細書。中小企業は独自に組合を運営・維持できないため、政府管掌健康保険に加入し、レセプトは医療機関から社会保険診療報酬支払基金に送られ1次審査され、その後、社保事務所が診療が適切かや資格を点検(2次審査)する。政府管掌健康保険は10月1日、社保庁から独立する形で全国健康保険協会管掌健康保険に移行した。

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