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2008年10月16日(木) 08時02分

自民税調、株価低迷打開へ 証券優遇税制、延長で一致フジサンケイ ビジネスアイ

 世界的な金融危機と株式市場の低迷を受け、自民党は15日、上場株式などの配当や譲渡益にかかる税率を一律10%に軽減している証券優遇税制を、2009年1月以降も延長する方針を固めた。自民党税制調査会は同日、麻生太郎首相が指示した追加経済対策に関連し、正副会長らによる会議を開き、証券優遇税制を延長することで一致した。住宅ローン減税の延長・拡充も盛り込む方向だ。設備投資の促進税制など企業向けの政策減税とあわせ、税制案の策定を自民党税調幹部への一任を決定した。

 証券税制の優遇措置をめぐっては、来年から予定していた上場株式などの譲渡益と配当金の課税に対する事実上の税率アップを見送り、当面、現行のまま制度を維持する。08年までとされた10%の軽減税率を継続し、本則の20%税率に戻さない方向だ。「複雑でややこしい」と投資家に不評だった年間500万円以下の譲渡益と100万円以下の配当金に来年から適用する予定だった10%特例税率も白紙になる。足元の株安が優遇延長の追い風になった。

 第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは「金融が混乱しているときには“波風”を立てないことが大事」と、現行制度の当面の延長に肯定的だ。もともと、09年からの制度については、一定額以上の所得者にとって確定申告が必要になることが敬遠される懸念が指摘されてきた。上限を超える所得を見込める投資家が実質増税を嫌って株式処分を急げば、市場に影響を与える可能性がある。

 一方、自民党は、金融庁が09年度税制改正要望で要望する英国の個人貯蓄口座(ISA)の“日本版”創設の検討を行う。これは、小口投資家向けに、毎年一定額までの上場株式への投資に対する配当を非課税とするもので、「投資家のすそ野を拡大する」(金融庁)狙いだ。ただ、熊野氏は、「株価が落ちているからと税制で下支えしようとすると、制度は複雑怪奇になる。腰を据えた改正論議が重要」と指摘する。

 景気の先行きに左右されやすい住宅購入の鈍化を防ぐため、住宅ローン減税も延長・拡充する方向だ。年末の期限切れになる住宅ローン減税は借入額の一定率を所得税額から控除する制度で、これの延長案が有力。国土交通省などが求める断熱性能が高い省エネ住宅購入の減税枠の拡大も検討する。所得・個人住民税の定額減税の具体化については、減税規模を対策で示されるかが焦点になる。

 15日の自民党税調では、企業向けの政策減税も追加経済対策に盛り込む方向を確認した。海外進出企業の利益を国内に還流させるため、企業の海外子会社からの受取配当金への非課税化が項目にのぼったほか、省エネ設備への投資促進税制、中小企業対策税制が検討される。

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【予報図】

 ■活性化に必要な恒久的措置

 金融経済対策の一環として、上場株式などの配当や譲渡益にかかる税率を一律10%に軽減している証券優遇税制が来年以降も延長されれば、世界的な金融不安の拡大で逃げ出した投資マネーを株式市場に呼び戻す一定の効果が期待できる。

 15日の日経平均株価は、過去最大の上昇率を記録した前日に続いて続伸した。だが、年初に比べると4割程度低い水準にとどまり、欧米に比べて東京市場の下げ幅は大きい。金融危機の余波で動揺が続く株式市場を下支えするには、投資家を引きつけるための魅力ある市場の創出が必要だ。

 株価低迷は、金融機関や事業会社が保有する株式の含み益を目減りさせる。企業業績の悪化は賃金抑制や雇用削減を通じて、実体経済を一段と下振れさせる要因になりかねない。証券優遇税制の変更が投資家離れにつながり「“貯蓄から投資へ”の流れが逆流しかねない」(日本証券業協会の安東俊夫会長)との懸念も強かった。

 ただ、優遇税制の延長は期間限定のものにすぎない。短期間に変わる制度は、投資家に不便を強いる。東京市場の活性化には、恒久的な税制優遇が欠かせないが、「その場しのぎの付け焼き刃では、市場に不安感を広げる」(第一生命経済研究所の嶌峰義清・主席エコノミスト)だけで、この制度では市場にカネは戻らない。(大柳聡庸)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081015-00000036-fsi-bus_all