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2008年10月16日(木) 00時00分

企業向けビスタ普及の行方…危機感強めるMS読売新聞


ビスタの普及促進に力を入れるマイクロソフト日本法人の樋口泰行社長

 マイクロソフトが鳴り物入りで普及拡大を進めている最新OS「ウィンドウズビスタ」。ただ、一般消費者向けの販売は順調に伸びているものの、企業向けは同社の思惑通りには普及が進んでいないのが実情だ。企業ユーザーへのビスタ普及動向は、IT産業全体のビジネスにも大きく影響するだけに、マイクロソフトも必死のようだ。

 「セブン-イレブン・ジャパンが社内のパソコン5000台にビスタ導入へ」。7月中旬、マイクロソフトはセブン-イレブン・ジャパンおよび野村総合研究所と共同で、こう銘打った発表を行った。

 セブン-イレブン・ジャパンは、以前からウィンドウズを基盤としたシステムを活用し、野村総研によるシステム構築の下、流通業界では最先端を行くITユーザーとして知られている。

 マイクロソフトはこのビスタ大型導入事例を、企業ユーザーへのビスタ普及促進の弾みにしたいところ。3社共同とはいえ、マイクロソフトが特定の企業の導入事例をニュースリリースにして発表するのは珍しい。それだけ「ここで弾みをつけたい」という強い意欲を表明した格好となった。しかし、それは裏を返せば、同社の企業向けビスタへの強い危機感の表れともいえるのだ。

 セブン-イレブン・ジャパンがビスタの導入を決めたのは、様々な最新技術もさることながら、強力なセキュリティー機能と運用管理負荷の軽減を始めとしたシステム全体におけるコスト削減を図ることができると判断したからだ。同社では、2009年2月までに社内のパソコン5000台にビスタを導入するとともに、従来から使用している約250種類の業務ソフトも、ビスタ上で継続利用していくという。

景気低迷も大きく作用

 実は、今回のこうした採用理由にも、企業向けビスタ普及への「対策」が盛り込まれている。企業向けビスタの普及にいま一つ勢いがないといわれる理由には、高いハードウエア要件や既存ソフトウエアとの互換性の問題などが挙げられている。中でも、既に社内で多くの業務ソフトを使用している企業ユーザーにとって、ソフトの互換性問題がビスタ導入に二の足を踏ませる最大の原因となっている。セブン-イレブン・ジャパンの導入事例の発表は、そんな企業ユーザーの悩みを払拭する狙いもあったといえる。

 マイクロソフト日本法人がセブン-イレブン・ジャパンの導入事例を発表した翌日、米マイクロソフトが08年6月期の決算を発表した。その中で同社は、ビスタの販売状況について、07年1月発売以来のライセンス販売数が1億8000万本を超えたと表明し、好調ぶりをアピールした。ただし、これは一般消費者向けと企業向けを合算した数字で、企業向けだけの数字ではない。

 はたして企業向けビスタは今後、広く普及するのか。業界関係者の間で意見は真っ二つに分かれている。肯定派の根拠で多いのは、サーバーOS「ウィンドウズサーバー2008」や、データベース「SQLサーバー2008」など、ビスタをクライアントとして構成するシステムのサーバー側の最新ソフトが出そろってきたことだ。サーバー側の最新ソフトを使いこなそうとすれば、クライアントにはビスタが最適だ。この流れが企業向けビスタの普及に拍車をかけることは十分にあり得る。

 一方、否定派が最も懸念するのは、やはりソフトの互換性問題。最近ではそれに加えて、景気低迷によるIT投資抑制の動きが大きく影を落とす。「わざわざビスタに変えなくても安定しているXPのままでいい」、と考える企業ユーザーがまだまだ多いのも事実なのだ。

 そんな企業ユーザーにどうビスタの魅力を理解してもらうか。マイクロソフトにとっては正念場である。(フリージャーナリスト・松岡功/2008年9月24日発売「YOMIURI PC」2008年11月号から)

http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20081016nt0a.htm