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2008年10月16日(木) 17時45分

【連載】ブロードバンド“闘争”東京めたりっく通信物語 47. イー・アクセス千本氏から合併話が来たJ-CASTニュース

 私は持てる自分の能力の半分を債務繰延べ工作に、残り半分をTMCとパートナーシップを組む可能性のある通信事業者との連携工作に注力した。めたりっくの名を冠した関連企業には申し訳ないが本家の一大事だ、もういいだろう、あとは任せたと、関連会社の経営活動からは思い切って手を引いた。

 さて、連携の相手として、主としてキャリア(設備持ち通信事業者)と、大きな経営規模を持つ通信事業の周辺会社にターゲットを絞った。

 しかし、ブロードバンド通信事業に進出する戦略的必要性を持ち、先に見積もった50億円の事業資金を工面できる体力を持った企業となると限られている。

 ちょっと、その前に、TMCの後発ライバルであったイー・アクセスから持ち込まれた合併話について記す。これで、当時のADSL事業を巡る雰囲気を理解していただく一助として欲しい。

 当時のイー・アクセスはNTT及びDDI脱藩重役の千本倖生氏とゴールドマンサックスの証券アナリストであったエリック・ガン氏が組み、我々よりわずかに遅れ、1999年秋に起業したADSLベンチャーであった。それに加え、翌年にアッカ・ネットワークスが同じようにベンチャーで起業した。こちらには知合いもいて、身近な存在であったが、これに比べれば、ずっと疎遠な位置に留まっていた。

 ISPへの回線貸し1本に事業対象を絞り、設備投資にも慎重で、技術面では100%NTTの後追いという側面が強いようなので、米国ベンチャーマネーを背景にしたADSLの第二電電版という印象を強く持っていた。

 この会社が合併話を持ってきたのははなはだ疑問で、意図が解せなかった。だが、小林君と一緒にこの両名と会った。彼等の話によれば、事態は相当深刻だとの事であった。想定していたほどに市場は盛り上がらず、しかもNTTの本格参入により、顧客獲得合戦に遅れを取っているという。

 ただし、資金面の不安はない様で、むしろ当方の苦しい資金事情を詳しく把握していた。彼らの話は続く。現在のADSLマーケットの低迷が続けば、巨大な組織力をもつNTTの前に双方とも討ち死にしかねない。TMCの知名度や展開力と自分たちの資金力や経営手腕を組み合わせることで、新興勢力の生き残りを図りたいと提案された。

 小異を捨てて大同に就こうという趣旨であり、その口調や態度には真剣さが読み取れた。最後の一戦を覚悟していた私は直ちに賛同の意向を述べる。TMCの賛同を貰えたから早速にも米国VCへの打診を開始し、しかるべき手順を経て早急に合併に進もうということになりその夜は別れた。

 我々以上に投資家の意向が経営判断で比重が高いことをこの時知った。しかし、我々とて投資家への責任感では負けない。それがその日の私の快諾の意味であった。

 小林君と帰りがてら、社長と経理はむこうに、力仕事や技術はこちらにという構図を一緒に想定したことを思い出す。経営主導権に固執しようという強い思いは我々にはなかった。

 しかしそれから旬日も経たず、米国VCの調整不能につき、合併話中断の連絡が来る。千本氏、ガン氏の単なる思いつきだったのか、米国VCの壁がよほど厚かったのか、合併話流産の真相は不明である。

 後日譚となるが、TMC売却の後にガン氏と談話する機会があった。このことは触れなかったが、ソフトバンクが1000億以上という資金投入でブルドーザのように市場を耕してくれたので、自分たちにもやっと展望が開けたと言っていた。イー・アクセスとて、2001年の前半が苦悩の日々であったことは確かだった。

【著者プロフィール】
東條 巖(とうじょう いわお)株式会社数理技研取締役会長。1944年、東京深川生まれ。東京大学工学部卒。同大学院中退の後79年、数理技研設立。東京インターネット誕生を経て、99年に東京めたりっく通信株式会社を創設、代表取締役に就任。2002年、株式会社数理技研社長に復帰、後に会長に退く。東京エンジェルズ社長、NextQ会長などを兼務し、ITベンチャー支援育成の日々を送る。

連載にあたってはJ-CASTニュースへ

東京めたりっく通信株式会社
1999年7月設立されたITベンチャー企業。日本のDSL回線(Digital Subscriber Line)を利用したインターネット常時接続サービスの草分け的存在。2001年6月にソフトバンクグループに買収されるまでにゼロからスタートし、全国で4万5千人のADSLユーザーを集めた。

写真
撮影 鷹野 晃
あのときの東京(1999年〜2003年)
鷹野晃
写真家高橋?氏の助手から独立。人物ポートレート、旅などをテーマに、雑誌、企業PR誌を中心に活動。東京を題材とした写真も多く、著書に「夕暮れ東京」(淡交社2007年)がある。

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