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2008年10月14日(火) 13時00分

【解説】ビジネス・コンティニュイティでIT/IS部門が果たす役割Computerworld.jp

 近年、情報システムにおけるディザスタ・リカバリ(DR)技術の進歩は目覚しく、製品やサービスの充実ぶりには目をみはるものがある。しかし、数あるDR 製品/サービスの中から、自社にとってふさわしいものをどのように選べばよいのか。また、導入済みのDRの有効性をどのようにして検証すればよいのか。本稿では、こうした疑問に対する解の1つとして、事業継続マネジメント(BCM)への取り組みを通じて、事業継続戦略とのマッチングからDRの有効性を検討していくというアプローチを紹介する。後半では、すでに情報セキュリティ・マネジメントやITサービス・マネジメントに着手している企業において、 BCMを合理的に進めていくうえでのポイントを挙げていく。

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■あなたの会社のトップ・マネジメントは、DRを理解、納得しているか

 読者の中には、正にこれからディザスタ・リカバリ(DR:Disaster Recovery)製品の導入を検討される方やすでに導入を終えた方など、さまざまな方々がおられることと思う。そうしたDR製品/サービスが導入される(されている)ことに関して、自社のトップ・マネジメントは十分に理解、納得しているだろうか。一度、この点を見つめ直していただきたい。

 トップ・マネジメントとは言うまでもなく、社長をはじめとする企業の経営層のことである。CIO(最高情報責任者)が置かれている企業であれば、CIO以外の経営層の皆さんも、DRについて理解されているかどうかを考えていただきたい。おそらく、「うちのトップ・マネジメントがITをよく知らない」「IT についてはわれわれIT/IS部門にまかせっきりで関心がない」などと嘆く方も少なくないであろう。しかし、DRの導入が多額のコストを要し、またシステム障害の発生時にDRが有効に機能するかどうかが、企業経営に大きな影響を与えるのであれば、トップ・マネジメントとしてもこの問題を軽視することはないはずである。

 では、どうすればトップ・マネジメントが自社のDRについて理解し、その投資を決断できるようになるのだろうか。そのためには、DRを導入した結果(もしくは導入しなかった結果)が、最終的に自社の経営にどのような影響を及ぼすのかが明確にされることが必要だ。その際、少なくともトップ・マネジメント主導の事業継続戦略と、IT/IS部門主導のDRとがきちんとマッチしていなければならない。

 事業継続戦略においては、大規模な事故や災害などが発生したときに、自社のビジネスをどのようなやり方で継続または復旧・再開させるかが定められることになる。事業中断を招くような事故や災害が発生した場合、どのような方法で、どの事業から、どの程度の期間のうちに復旧・再開させるのか(もしくは中断させずに継続させるのか)ということを、企業がそれぞれの事業内容や事業環境、取引先との関係、企業理念や価値観などに基づいて独自に考える必要がある。そして、対象システムに導入されたDR、およびその運用管理を行うIT/IS部門は、自社の事業継続戦略を支える重要な役割を担うことになる。

 したがって、トップ・マネジメントに対する説明では、まず、「自社が描く事業継続戦略を具現化する」という観点から、どのようなDRを、どのシステムにどれくらいのコストをかけて導入すべきかをわかりやすく伝える必要がある。その際には、技術的な問題にあまり深入りすることなく、災害が発生した後の結果と、そこに至るストーリーを明確に示すことが重要である。

 ただし、IT/IS部門がトップ・マネジメントとの間で上のようなコミュニケーションを図るにあたっては、当然のことながら、そもそも自社の事業継続戦略が定まっていなくてはならない。そこで次節からは、事業継続マネジメント(BCM:Business Continuity Management)の進め方を説明しながら、事業継続戦略の検討・策定プロセスと、これに対するIT/IS部門の関与について述べていきたい。

■BCMに対するIT/IS部門の関与のしかた

 図は、BSI(British Standards Institution:英国規格協会)によるBCM規格「BS 25999」で示されている「BCMライフサイクル」の概念である。これは、組織におけるBCMの進め方として推奨されている標準フレームワークとして利用されている。以下、このBCMライフサイクルの各段階を追っていきながら、BCMの進め方とIT/IS部門のかかわり方について説明する。

<BCMライフサイクル1:組織の理解>

 第1段階は「組織の理解」である。この段階では、自社の事業内容や経営事情、価値観、取引先やステークホルダーとの関係、事業が停止した場合の影響の大きさなどの各要素から、災害発生時に早期再開させるべき(もしくは中断を避けるべき)活動(業務)は何かを明確にする作業が行われる。

 例えば止めてはならない業務の1つが、「コールセンターにおける電話受付業務」であったとするなら、この業務を行うために必要な情報システムをすべて洗い出していくことになる。その場合、顧客データベース・システム、コール受付データベース・システムなどが考えられる。また、これらのシステムが稼働するために必要な関連システムがあれば、それらももれなく挙げていく。社内ネットワーク向けDNSやDHCPサーバ、認証サーバなどは当然含まれるであろうし、もし顧客データベース・システムが外部ストレージ・システムに格納されているデータを参照しているのであれば、これらも対象に含めなくてはならない。

 こうして洗い出されたシステムが、DRによってカバーされるべき最低限の対象範囲となる。逆に言えば、これら以外のシステムについては、この時点ではDR の対象に必ず含める必要はないということになる(対象範囲を広げすぎるとオーバースペックとなり、運用効率や費用対効果が低下してしまう)。

 加えて、DR対象システムを、どの程度の期間で再開・復旧させるべきかを、それぞれの業務が停止した場合の影響の大きさなどから検討していく。これは、「目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)」と呼ばれ、BCMにおける主要なパラメータの1つである。例に挙げたコールセンター業務であれば、平常時の1日当たりのコール件数、コールが受け付けられなかったことによって顧客側が被る迷惑の度合い、コール受付が停止することによる営業損失などがRTOを決める根拠になりうる。

(田代邦幸/インターリスク総研 コンサルティング第二部 BCMチーム 主任研究員)

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