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2008年10月13日(月) 02時31分

<偽装請負>国土交通省の公用車「職員が運転手に指示」毎日新聞

 国土交通省発注の公用車運転業務について、一部の出先機関の職員が受注業者の運転手に直接仕事の指示をしていることが毎日新聞の調べで分かった。大手業者の運転手は「仕事内容から勤務時間まで、職員からすべての指示を受けている。業務委託を装った偽装請負だ」と証言。専門家も労働者派遣法で禁じる偽装請負の疑いが強いと指摘する。国交省OBが天下りした業者間の談合疑惑に加え、公用車運転業務を巡る新たな疑惑が浮上した。【田中謙吉】

 国道事務所など国交省の出先機関は、業務委託という形で車両運行管理請負会社と契約を結んでいる。こうした業務委託や業務請負では、従業員への管理責任の所在を明確化させるため、委託業者は発注先から独立して業務を行わなければならない。運転手に直接指示を出して管理する場合は、派遣契約を結んで運転手を受け入れるよう労働者派遣法で定められている。

 毎日新聞が入手した委託契約書によると、送迎先や拘束時間など仕事の指示は、業者の車両管理責任者を通じて出すよう決められている。職員は運転手に直接指示できない。

 しかし、業界大手の「日本総合サービス」(東京都品川区)社員で、西日本の出先機関で10年以上の勤務経験がある運転手は「車両管理責任者から一度も指示を受けたことがない」と証言する。

 この運転手によると、公用車利用の日程表が幹部席の近くに張られていて、運転手は幹部職員から直接指示、命令を受けている。事実上、派遣契約すべき社員と同じ扱いだ。用地交渉などで仕事が長引き残業する際にも、車両管理責任者からの残業命令はない。このため運転手は後日、時間外勤務命令書を自分で作成し、責任者から命令があったように装っているのが実態だ。

 関東地方で車両管理責任者の経験がある「日本道路興運」(新宿区)の元社員も「出先機関から仕事の指示を受けて運転手に指示を伝えたことは一度もなかった」と証言する。

 労派法に詳しい井上耕史弁護士は「業務委託契約で、国交省が業務の内容や時間外勤務などの指示を運転手に直接出すのは、偽装請負で違法だ」と問題視する。

 国交省会計課は「車両管理責任者から適切に指示が伝えられていないのであれば、問題であり是正すべきだ」と話している。

 ◇解説 背景に天下り問題

 国土交通省の公用車運転業務は、公正取引委員会が談合疑惑で立ち入り検査に入る事態に発展し、特定の大手業者だけが優遇される天下りの弊害が浮き彫りになった。だがこの問題は、偽装請負とも密接な関係にある。

 国交省の出先機関が請負を偽装すれば、直接指示できる運転手を長期間確保できるメリットがある。職員の指示で運転手が働く場合は本来、労働者派遣法に基づき、出先機関は業者と派遣契約を結んで運転手を受け入れる必要があるが、派遣契約では期限が最長で3年間と定められており、慣れた運転手を抱え続けられない。天下り先の大手業者にとっても、偽装請負なら、多数の運転手にその都度、細かな指示を出す手間が省ける。

 「日本総合サービス」など車両運行管理請負大手3社は06年度、全国の総発注額約167億円のうち、8割を超える139億円分を受注し、計55人(同年度)の天下りを受け入れていた。指名競争入札で競争性が阻害され、天下り先に利益が流れてきた経緯と併せ、背景には国交省と天下り先の利害関係が透けて見える。

 7日の衆院予算委員会で麻生太郎首相は、民間企業の偽装請負について「確認された場合、労働者の雇用が失われることがないよう、派遣先と派遣元の双方に必要な措置をとることは当然」と発言しており、今後の対応が注目される。【田中謙吉】

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