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2008年10月12日(日) 08時01分

北の要求に屈した テロ支援指定解除早くも批判 米“一貫性なき外交”産経新聞

 【ワシントン=有元隆志】米政府は11日、北朝鮮へのテロ支援国家指定の解除に踏み切った。北朝鮮が核実験に向けた動きをみせるなど「瀬戸際戦術」を展開したことに事実上屈した格好だ。来年1月のブッシュ大統領の任期切れが迫るなかで、核施設の検証問題での合意という「目先の利益」を優先した政権側の姿勢に対し、共和党大統領候補のマケイン上院議員が解除発表前に異例の懸念表明を出すなど、批判が相次いでいる。

 外交筋によると、ブッシュ大統領は指定解除承認にあたり、北朝鮮から検証受け入れの確約をとることと、日本などとの調整を図るよう指示したという。

 ライス国務長官は発表に先立って、日中韓3カ国外相と電話協議した。中曽根弘文外相はヒル国務次官補(東アジア・太平洋担当)が今月初めの訪朝でまとめた検証体制の合意案には確認すべき事項があるとして、慎重な対応を求めた。

 ライス長官は「真摯(しんし)に日本側の声に耳を傾けるという姿勢ではなかった」(外交筋)という。同筋は「米側には指定解除をいち早く実施することで、北朝鮮が核実験など対応をエスカレートさせるのをとめたいとの意向がある」と指摘する。

 マケイン氏は10日の声明で、米政府が北朝鮮との間で基本合意に達した後に、「了承を得るためだけにアジアの同盟国と協議している」として、日本に事後承諾を求めている政権側の交渉手法に懸念を表明した。

 マコーマック国務省報道官は、検証にはプルトニウムによる核計画だけでなく、ウラン濃縮による核計画も含まれていると強調している。これに対し、下院外交委員会共和党筆頭理事のロスレイティネン議員は、北朝鮮には核計画放棄の合意を履行する意思はないことは明白だとして、「決定を強く批判する」との声明を出した。

 ブッシュ政権はテロ支援国家指定問題で、政権第1期では拉致事件の解決を事実上解除の条件と位置づけたが、第2期では分離を図った。昨年3月にもマカオの金融機関、バンコ・デルタ・アジア(BDA)で凍結されていた北朝鮮関連資金について、核交渉を優先する立場から、全面返還に応じた。

 同盟国日本の懸念を振り切る形での今回の指定解除決定は、一貫性のないブッシュ政権の対北朝鮮外交を象徴しているといえそうだ。

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 ■北、20年来のかせ外れる

 【ソウル=水沼啓子】北朝鮮にとって、米国のテロ支援国家指定解除は国際社会の常識とは別に、大韓航空機爆破事件の翌1988年に指定されて以来20年に及んだ米国の「対北敵視政策」が終了し、米国から「普通の国家」として認められたことを意味する。指定解除により、北朝鮮は国際金融機関の支援を受ける道が開けることになり、経済的な効果も期待できることになった。

 北朝鮮は1990年代に大量の餓死者を出すなど慢性的な食糧難と経済難に苦しんできた。北朝鮮にとって、金融・経済支援を阻んできたテロ支援国家指定の解除は長年の念願であったはずだ。

 北朝鮮はこれまでにテロ反対の立場を表明するなど、指定解除に向けた地固めを進めてきた。そして北朝鮮の核をめぐる6カ国協議に、この問題をリンクさせ、巧みな戦術を展開して指定解除にこぎつけた。

 しかしテロ支援国家指定が解除されたからといって、これが直ちに経済再建に結びつくとする見方は少ない。

 世界銀行やアジア開発銀行から低金利の融資を受けるには、まず国際通貨基金(IMF)への加盟が必要となるからだ。IMFに加盟するには透明性や開放性が求められる。

 一方で北朝鮮は「普通の国家」としての責任も負わなければならない。まず2003年に脱退した核拡散防止条約(NPT)に復帰し、国際原子力機関(IAEA)の核査察を無条件で受け入れるという義務を果たす必要がある。

 北朝鮮は今後、本当に非核化の道を歩むのか。非核化を達成すれば、北朝鮮はそのときに米国との取引材料を失うことになる。今後の米朝関係は曲折が予想される。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081012-00000057-san-int