記事登録
2008年10月11日(土) 15時01分

<個室ビデオ店放火>粘る煙の中手探りで脱出…40代の男性毎日新聞

 粘り気のある液体のような煙だった。吸い込んで、死んでしまうと思った−−。大阪市浪速区の個室ビデオ店「キャッツなんば店」で15人が死亡した放火殺人事件で、出火当時に店内にいた大阪市内の40代男性が、死を意識した末にようやく脱出した経緯を、毎日新聞の取材に証言した。避難誘導などをしなかった同店が、これまで被害者らに一切の説明をしていないことにも憤りを募らせている。

【写真特集】15人死亡 大阪・個室ビデオ店火災

 1日の仕事は、朝が早かった。1日午前1時過ぎ、久しぶりに同店を訪れ、個室の7号室に入った。明かりを消したが、寝坊するといけないので寝ないでおこうと思い、簡易ベッドに靴を履いたまま座っていた。

 「うわー、なんやこら」。突然、男性の大声が響いた。「なんかあったんか」と個室の扉を開けた途端、真っ黒い煙が押し寄せ、気分が悪くなった。このままでは死ぬと思い、息を止めて廊下に飛び出た。

 真っ暗だった。誘導灯も見えない。出口は確か右のはず。記憶を頼りに進んだ。目は痛く、開けていられない。狭い廊下を手探りで壁伝いに進んだ。

 「そんなに遠くないはずや」。わずかな距離だが、長い時間に感じられる。ついに、フロントのカウンターにたどり着いた。出口の方を見ると、戸外の明かりが見える。助かったと思った。

 脱出して、路上に座り込んだ。建物の出口からは、どす黒い煙が噴き出している。自分の後から脱出してくる人はいなかった。周りには従業員や客2、3人が寝転んだりしている。吸い込んだ煙を出そうと、何度もたんをはいた。

 運ばれた病院で診察を受けて帰宅した。目は角膜がはがれ、肺は真っ黒になっていた。3日間ほど、黒いたんが出続けた。後から思うと、個室の扉にはすき間がなく、室内に煙が入ってこなかった。あの大声がなかったら、火事に気づかずに死んでいたと思う。

 大阪府警から5日、個室に残していた金や家の鍵の返還を受けた。紙幣は、その上に物を置いていた部分だけが元の色で、その他は黒くなっていた。「ものすごい煙だったんだな」。ぞっとした。

 男性は「店の構造が問題だ」と話した。店内の個室スペースの出入り口付近で火事が起きていたら、全員が死んでいたと思う。「窓もふさがれていたと報道で知った。運営会社に腹が立った。今になっても全く説明がないし、記者会見も開かずに逃げ回っている」

 放火、殺人などの容疑で逮捕された小川和弘容疑者(46)には、こう言いたい。「自分は比較的軽傷だったが、多くの人が亡くなった。罪を償うべきだ」【村松洋】

【関連ニュース】
個室ビデオ店放火:ビル管理人「防火管理者辞める」と書類
個室ビデオ店放火:事件前から睡眠薬使用 弁護士が接見
個室ビデオ店放火:独自管理者設置指導せず 大阪市消防局
個室ビデオ店放火:発生から1週間 献花台を撤去
個室ビデオ店放火:手持ちライターで喫煙後に…小川容疑者

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081011-00000051-mai-soci