記事登録
2008年10月11日(土) 12時47分

科学はゲーム「おもしろい」 ノーベル賞4氏語る 「理科離れ」歯止め期待 産経新聞

 「科学技術創造立国」を掲げながら、さまざまな調査が若者の「理科離れ」を示している日本。政府関係者がその歯止めになってほしいと期待を膨らませる朗報が今週続いた。日本人4人のノーベル物理学賞、化学賞受賞。4氏はなぜ科学の道を志し、若者が理科を敬遠する日本の現状をどう受け止めているのか。そして対策は。それぞれの言葉から探った。

 ■好きこそものの…

 「物理が好きになったのは、英語が嫌いだったから」。物理学賞の受賞決定翌日の8日、京大名誉教授の益川敏英さん(68)は、学生との対話集会でこう語り、会場の笑いを誘った。

 4人の受賞者がそれぞれの研究分野を選んだ理由はさまざまだ。

 益川さんとの共同研究で受賞が決まった高エネルギー加速器研究機構名誉教授の小林誠さん(64)も「覚えるのが嫌で、語学系はだめ。理数系が得意だった」。同じく物理学賞の米シカゴ大名誉教授の南部陽一郎さん(87)は、小学生のころには鉱石ラジオを作って遊んでいた科学少年。当時のあこがれは発明王エジソンだったという。

 一方、化学賞の米ボストン大名誉教授の下村脩さん(80)は「薬なんて何の興味もなかった。当時は若者に好きなことをやる自由はなかった」と振り返る。原爆を体験し、高校へも進学できなかった下村さん。長崎医大薬学専門部(現長崎大薬学部)が近所へ移転してきたため、不本意ながら入学したことが、今回の受賞につながった。

 ■自分の考えを大切に

 「なぜ?」を軽視する受験教育や、情報過多が科学への関心の芽を摘んでいるという指摘は少なくない。4人は“後継者たち”の研究・勉学環境をどうとらえているのだろうか。

 南部さんは「世界中の論文が毎日、新聞のように手に入ることは幸福だと思う」とする一方で、「自分自身で考える暇がないことが、(独創性が育たない理由に)あるかもしれない」とチクリ。小林さんも「自分の考えを大切にする中で、人それぞれの考え方のバリエーションが出てくる気がする。そういう中からいい仕事も出てくるのではないか」と独創性の大切さを説いた。

 南部さんと下村さんはかつて、研究の場に米国を選んだ「海外流出組」。しかし下村さんは「当時と違って日本も豊かになり、日本の方がよい研究ができるようになった。今ならこちら(米国)にくるかどうか分からない」と話した。

 ■科学はおもしろい

 受賞決定後、一気に発言の機会が増えた4人。10日に塩谷立文部科学相と面会した益川さんは科学離れが進む現状について、「今の大学入試は、採点が楽なようにできていて問題がある。人間は本来好奇心がいっぱい。それに応える教育システムが必要だ」と注文をつけた。

 小林さんも、現在の日本の教育のあり方には問題があると考える。「自然を理解するためには、できあがった法則を知るだけではだめ。法則の発見に至ったプロセスを伝えなければ」

 「(受賞決定が)日本の科学離れの歯止めになれればうれしい」。日本初のノーベル賞受賞者、湯川秀樹さんの共同研究者で名古屋大教授だった坂田昌一さん(ともに故人)にあこがれ、名大理学部に進学した益川さん。次代を担う子供たちに「科学は面白いよ。ゲームと同じだ。いろんな本を読んで“活字中毒”になってほしい」とメッセージを送った。

【関連記事】
ノーベル賞で一挙に出世 オワンクラゲ、加茂水族館の主役に
ノーベル平和賞にアハティサーリ氏
【ノーベル物理学賞】「動」の益川さん、「静」の小林さん 共同会見
ノーベル賞、賞金減額も 金融危機、財団を直撃
「まさか先輩とは」「自慢できる」下村さんの母校、住高沸く

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081011-00000524-san-soci