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2008年10月11日(土) 08時04分

無年金訴訟 元学生2人敗訴確定 最高裁「支給判断は初診日基準」産経新聞

 成人学生の国民年金加入が任意だった時代に未加入のまま統合失調症になったのに、20歳前に診察を受けなかったため、障害基礎年金を受け取れなかった都内の男性2人が、不支給処分取り消しなどを求めた2件の「学生無年金訴訟」の上告審判決で、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は10日、元学生側の請求を退けた。2審東京高裁で分かれていた判断が統一され、元学生の敗訴が確定した。

 初診日は成人後だが、未成年時にすでに発症していたとみられるケースで、「初診日」解釈について初の最高裁判断となった。

 判決があったのは学生時代、20歳を過ぎて統合失調症と診断された都内の40歳と48歳の男性。訴訟では、初診日が20歳未満であれば受給できるという規定について、発症が20歳未満であると確認できれば、初診日をさかのぼって拡張解釈できるかが争点だった。

 判決では「支給の判断が客観的で、画一的、公平となるように、発症時ではなく初診日を基準としている」と指摘。初診日について、「疾病(しっぺい)について初めて医師などの診療を受けた日」と文言通りに解釈した。

 裁判官4人のうち今井功裁判官は「統合失調症の特殊性からすれば、発病時期が20歳前であることが医学的に確定できれば、支給用件を満たしたとすることに合理性がある」とする反対意見をつけた。 

 判決後に会見した元学生の男性(48)は「思いが強かっただけに失恋したよう。敗訴は敗訴だがこういう人間もいたと記録してもらえれば」と語った。池原毅和弁護士は「形式的で理由のない判決。残念だが立法や行政への働きかけは続けていく」と話した。

 最高裁では現在、同種の訴訟が2件争われている。

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 ■公平維持へ“辞書的”解釈

 「初診日」の解釈について初判断を示した10日の最高裁判決。すでに昨秋、学生を強制加入の対象としなかったことは合憲という判断が示され、この日の判決で「初診日」の拡張解釈を認めなかったため、元学生にとって司法による救済の道は事実上、閉ざされた。

 訴訟の争点は「初診日」を柔軟に解釈して、受給資格を広げられるかだった。身体障害者は障害を負った時期と初診日にほとんど差はないが、統合失調症など精神障害者は、症状悪化後に初めて受診することも多い。このため、発症が20歳未満なら初診日が20歳以上であっても支給を受けられるかどうか、2審東京高裁の判断は分かれた。

 元学生勝訴とした高裁判決は「症状が出て診察が必要となった時点が20歳前なら、例外的に拡張解釈を認められる」と柔軟に判断した。たしかに、国民年金法には、未加入でも「初診日」が20歳未満であれば障害基礎年金が支給されると定められている。

 だが、一方でその前提となる「初診日」について、「傷病について初めて医師の診療を受けた日」と明記。この受給資格の前提を崩せば、客観的基準を失わせ、公平で統一された判断を速やかに下せなくなり、新たな不平等を生む可能性もある。最高裁判決は「初診日」を文言通り、“辞書的に”解釈したといえる。

 学生無年金訴訟をめぐっては、地・高裁段階で判断が揺れてきたことからも、問題の深刻さや司法判断の難しさがうかがえる。ただ、こうした訴訟の過程で、平成16年には特別障害給付金支給法が成立、不十分とはいえ、一定の“成果”も生んできた。

 司法による救済には限界がみえたが、合憲とされたこの制度のなかで、何ができるか。立法府への負託は重い。(酒井潤)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081011-00000025-san-soci