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2008年10月11日(土) 17時44分

【衝撃事件の核心】覚醒剤に溺れた「加勢大周」 後悔と号泣の転落軌跡産経新聞

 角界、大学キャンパス、芸能界…。薬物汚染がとどまるところを知らない。今度は、トレンディー俳優として一世を風靡(ふうび)した加勢大周こと川本伸博容疑者(38)が、覚せい剤取締法違反と大麻取締法違反の現行犯で今月4日に逮捕された。大麻と覚醒剤の“ダブル所持”に加え、部屋からはプランターで育てられた大麻草も見つかった。織田裕二さん、吉田栄作さんと並び「平成御三家」の一角を担った加勢容疑者だったが、芸名を巡る裁判や隠し子騒動など本業以外で注目を浴び続けてきた揚げ句の逮捕に、「すっかり憔悴(しょうすい)しきった様子」(弁護人)だという。(道丸摩耶、石井那納子)

■シャブ、注射器、大麻、そして…

 4日夜。

 国道246号線沿いに建つ東京都世田谷区新町の高級マンションの周辺で、6人ほどの男たちが息を潜めていた。薬物や銃器犯罪を取り締まる警視庁組織犯罪対策5課と世田谷署の捜査員たちである。

 このマンションの7階に住む加勢容疑者について、「麻薬をやっているのではないか」との確度の高い情報が世田谷署に寄せられたため、張り込んでいたのだ。

 午後8時ごろ、仕事を終えて帰ってきた加勢容疑者に捜査員たちは近づき、家宅捜索の令状を示した。

 すぐに状況を察した加勢容疑者は、あきらめたのだろうか。「特に抵抗する様子はなかった。捜査員と一緒に部屋に入り、捜索に立ち合った」(捜査幹部)

 居間のテーブルにあった白い封筒からは、2袋の覚醒剤3グラム(末端価格18万円)が見つかり、そばには注射器4、5本が置かれていた。さらに、ベッド脇の床においてあった黒いきんちゃく袋には、乾燥大麻9・4グラム(同5万円)とパイプが入っていた。

 午後8時46分、警視庁は覚せい剤取締法違反(所持)と大麻取締法違反(同)の現行犯で、加勢容疑者を逮捕。尿からは覚醒剤の使用を示す陽性反応も出た。

 しかし、捜査員を驚かせたのは、それだけではなかった。

 クローゼットには、高さ約40センチに育った大麻草25株が、3つのプランターに植えられていたのだ。

 捜査幹部が解説する。

 「クローゼット内には大麻を育てるために必要な照明器具も完備され、テーブル横の小さなプラスチックケースには大麻種子15粒が入っていた」

 状況から、加勢容疑者が大麻を育てていたことは明らかだった。

■接見時、弁護人に号泣

 「自分が弱かったんですよね」

 逮捕直後、加勢容疑者は取り調べを担当する捜査員にこうつぶやいたという。

 「自分で使うために持っていた」と覚醒剤と大麻の所持を素直に認めた加勢容疑者は、クローゼット内の大麻草についても、「自分が育てていた」と栽培を認めた。

 弁護を担当することになったのは、加勢容疑者と10年来の友人だという弘中惇一郎弁護士。「ロス疑惑」の三浦和義容疑者の無罪を勝ち取った“スゴ腕”として知られる。タレントの川崎麻世さんのプライバシー報道や野村沙知代さんの学歴騒動をめぐって代理人を務めるなど、芸能人の弁護経験も豊富だ。

 「取り返しのつかない迷惑をかけてしまった。申し訳ない」

 逮捕2日後に加勢容疑者と接見した弘中弁護士に、加勢容疑者は涙をボロボロ流して号泣しながら謝罪の言葉を繰り返したという。

 大麻と覚醒剤という2つの薬物に手を出した加勢容疑者だが、薬物問題に詳しいライターの見方はこうだ。

 「おそらく初めは大麻に手を出したのだろう。それから、より大きな刺激を求めて覚醒剤にも手を広げていったのではないか」

 「取り返しのつかない」過ちの契機となったのは、大麻だった可能性が高い。ベッド脇の袋に入っていた乾燥大麻も、自分で育てたものだったのだろうか。だとすれば、事件は“自分がまいた種”を地でいく。

 部屋には計量用のはかりがあり、押収された覚醒剤の量も一般的な所持事件より多めだったことから、芸能界では「加勢容疑者が売人として譲り渡しに関係していたのではないか」との憶測も乱れ飛んだ。

 しかし、捜査幹部は「はかりは通常の家庭にもあるものだし、押収量もお金がある芸能人が買う量として特段不思議はない。薬を小分けにする袋も見つかっていないし、大麻パーティーなどマンションに多数の人が出入りしていたとの話もない」と否定する。

 同課は覚醒剤の入手先を追及するとともに、ベッド脇から見つかった乾燥大麻についても、栽培していたものと種類が異なっていた場合には、入手先を調べることにしている。

 「とりあえず、現時点での容疑事実は認め、取り調べにもきちんと応じています。でも、入手先についての話になると、やはりウソが交じる。いつごろからやっていたかを聞いても、最近からだと言う。誰だって自分が不利になることは言いたくない」

 捜査幹部は軽くため息をつきながら言った。

 「じっくり付き合いますよ」

■訴訟、隠し子、離婚…相次いだトラブル

 平成2年、3万人の中から映画「稲村ジェーン」の主役の座を射止めた加勢容疑者は、その甘いマスクでブレイク。トレンディー俳優として、ドラマやコマーシャルに引っ張りだことなった。

 しかし翌年、独立をめぐって、所属していた芸能事務所とトラブルになり、事務所側が「加勢大周」の芸名使用の禁止などを求めて提訴。加勢容疑者は法廷で、「お金のためなら何でもやるというプロダクションの方針と合わず、このままでは食いつぶされると思い、芸能界から引退しようと思った」と引退も考えたことを明かした。

 1年以上に及んだ訴訟は、東京高裁で加勢容疑者の逆転勝訴が確定。独立と芸名使用がともに認められたが、イメージ失墜は避けられなかった。

 トラブルは続く。

 9年には、所属事務所が金庫などを盗まれる被害に遭ったほか、14年には以前マネジャーをしていた男が詐欺事件で逮捕された。

 どちらも不運としか言いようのない事件だが、「イメージがすべての芸能界にあって、こうしたトラブルが続けば、やはりダメージは大きい」(芸能関係者)。

 あわせて、私生活も順風満帆とはいかなかった。

 12年4月、元OLの女性と入籍したことを発表。似顔絵を手に、集まった記者に笑顔で結婚を報告したが、直後に隠し子の存在が報じられた。

 「加勢は隠し子がいることを認めたが、それが原因となったのか、2年も経たないうちに離婚してしまった」(同)

 無精髭を生やし、うつむきがちに離婚会見を終えた加勢容疑者に、“御三家”の面影はなかった。

 離婚から7年弱。捜索を受けた2LDKのマンションで、加勢容疑者はひとり暮らしをしていた。

 近所に住む女性(53)は、最近の加勢容疑者の様子をこう語る。

 「この辺の住民はみんな、加勢さんがあのマンションに住んでいることは知っていたけれど、姿を見かけたという話はほとんど聞いたことがない」

 加勢容疑者のファンだったという女性会社員(31)も、その“凋落(ちょうらく)”ぶりを嘆く。

 「中学生のころ、加勢さんのドラマを夢中になって見た。ちょっと生意気そうだった(同じ“御三家”の)吉田栄作さんとはタイプが違い、さわやかな印象だった。久しぶりに聞いたのがこんな話題なんて、残念です」

■番組どうなる? 対応に追われ

 突然の逮捕にあわてたのは、加勢容疑者が出演する番組を放送予定だったテレビ各局だ。

 11日に放送される予定だった日本テレビのドラマ「トンスラ」は、加勢容疑者の出演シーンを別の俳優にさしかえて撮影し直しとなった。

 「手間はかかりますが仕方ありません」(日本テレビ総合広報部)

 さらに、レギュラー出演していたTBS系ドラマ「キッパリ!!」(中部日本放送制作)も、放送打ち切りに。

 原作者の上大岡トメさんはホームページで「とにかく楽しみに見てくださっていたみなさんが、残り20話をご覧になれなくなったことが残念でなりません。こんなことが二度と起こらないように、願うばかりです」とコメントした。

 主演の女優、奥山佳恵さん(34)は、自身のブログに「加勢さんは、現場でも楽しく、かつ真剣に撮影に取り組まれていらしたので、まさかこのような事になるとは思いもよりませんでした」と撮影時の加勢容疑者の様子を記した。初恋の相手を演じていた加勢容疑者に対しては、「今後は、社会人としての責任を果たし、一日も早く立ち直られることを願っております」とエールを送った。

 同じく共演者の的場浩司さん(39)は、加勢容疑者の友人でもあった。それだけにショックは大きい。

 「『なんで?』そんな思いしかありません…なんでだろ…本当に…真実を知りたい…アイツを信じたい…」と、ホームページで悲痛な心境を明かした。

 加勢容疑者の所属事務所は「社会人として、また世間の皆様に夢を与える立場の人間として、このような形でお騒がせしてしまったことは許されることではありません」と平謝りする。しかし、失った信頼を取り戻すのは容易ではない。

 薬物の恐ろしさは、その常習性にある。打ち切られたドラマ「キッパリ!!」は、怠惰な主婦が過去の自分に決別し、成長していく姿を描いたドラマ「キッパリ!」の続編だ。ドラマにならい、加勢容疑者も薬物と「キッパリ」決別することができるか。

 ファンはクスリを断ち切った加勢容疑者の“続編”に期待している。

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