記事登録
2008年10月10日(金) 00時00分

第4回 吉永小百合さん読売新聞

 シンガー・ソングライターの松任谷由実さんが、豪華なゲストと対談する「yumiyoriな話」。第4回は、女優の吉永小百合さんの登場です。いつまでも変わらぬ輝きを放ち続ける2人ですが、そこには共通する秘密があったようです。(構成・清川仁)

「一生生徒」主義で

 松任谷(以下M) 映画「まぼろしの邪馬台国」拝見しました。お若くてビックリ。

 吉永(以下Y) 「君はもう年だから、ラジオ、クビだよ」と言われるシーンがあるので、ちょっとは気が楽ですけども。30代後半という設定なので、必死に化けてやりました。

  自己鍛錬が並々ならないといつも思って拝見しているのですが……。

  本当は怠け者なんですよ。水泳も一人で練習するよりスクールに参加してやるので楽しいんです。

  勉強されるのが本当にお好きなんですね。

  モットーが「一生生徒」。なんでも吸収したいと思うんです。

  自分を白紙にして何かを習って新しい自分を発見される。それが素晴らしいです。

  歌舞伎でしたら、次の世代まで自分が持って教えていく。ですが映画は、その都度一本ずつ違うので、私たちはどんどん忘れていかなきゃいけないし、また新しいものを学んでいくんですよね。

  出演作は、脚本などを見てご自身で決めるのですか?

  自分がその役を好きになれるかどうかが大きい。今回演じた宮崎和子さんはスケールの大きな方で、亭主関白のように見えて、実は手のひらの上で夫を自由にさせてるのではと思った。好奇心の強いところも、私と似ているかな。

  好奇心といえば、堤幸彦監督とのお仕事は初めてですよね。私だったらヒップホップとコラボレーションするような感覚なのかなと思ったのですが、そういう意味で興味がおありだったのでは。

  堤さんの作品は、渡辺謙さん主演の「明日の記憶」を見て、ぜひご一緒したいと思ったんです。「トリック」とかは見てなかった。現場は、まさに21世紀の近代的な撮影でしたね。

  カメラも色調もずーっと揺れているような。

  ハイビジョンで撮っているんです。今までの出演作は全部フィルム撮影でした。今回は3台ぐらいで撮ったものを、モニタールームにいる監督がすぐに編集するんです。

  とても自由に演じられている感じがしました。

  そうですね。竹中さんとアドリブ的にやった部分もあるんです。

  印象に残ったのが、嵐の中、発見された竹中さんを囲む場面。吉永さんだけが、きちんと動作をつけられて反応されていた。

  「母(かあ)べえ」の時、山田洋次監督から手を使って芝居することが大事だと教わった。どうしても顔だけでやりたがるところがあるんでね。「細雪(ささめゆき)」のときは、文楽の人形のように市川崑監督の注文通りに動いて、作品になった時、今までの自分にない部分が表れていて興奮しました。素晴らしい監督とやると、自分では分からなかった表現を発見するんですよね。

  吉永さんは、「吉永小百合」というある意味特別な立場を続けていらっしゃる。あくまで映画女優に基点を置かれて。映画はクローズアップがあるし、主役のオーラとか華が求められる。それを年齢とも戦いながら……。

  原節子さんが42歳でやめられたので、私もそろそろかなと思ったこともありました。でも、その時代と違って今は完全に引っ込めない。だったら、年を重ねることをみんなに見てもらう方が、むしろ自然じゃないかと思って。結局、映画が好きだから、映画の世界にしがみついていたいと思うんです。

折々で冒険します

 よしなが・さゆり 東京都生まれ。1959年に映画デビュー、「キューポラのある街」など日活の青春スターとして活躍。73年に結婚後も「おはん」「母べえ」などに主演。「まぼろしの邪馬台国」は113本目の出演作となる。

  「邪馬台国」では、イメージカットで卑弥呼も演じられていましたね。

  面白かった。メークさんが、「白塗りのおしろいで私の顔をパンパンたたくわけにはいかない」というので、自分でやってみたんです。アイシャドーもコッテリとつけて。すごくいい気分。古代にタイムスリップしたような雰囲気でしたね。

  私は吉永さんという存在そのものが卑弥呼のように発信をしているから、その存在を求める監督さんが後を絶たないと思うんです。実は吉永さん自体が客観性を持って、(自分のイメージを)操作してるのでは……なんて。

  そういうのはないのですが、ただ、自分にさめているタイプですね。常に「これでいいんだろうか」と思いつつ、それでも前に進みたいという思いです。

  それは最初から?

  最初は無我夢中でしたが、途中から、このままでは駄目になると思ったんです。ほかの世界も知りたくて学校に行き、結婚する時も、違う名前になりたかった。何よりもまず人間らしく生きたかった。

  生活すべてを映画女優という生き方にされてないのが、継続の秘密では。私も、すっぴんで買い物に行ったり、友達と会ったり、そういうことを楽しんでいないとバランスがとれないんです。

  いろいろ生活を変えてみて、すべてを犠牲にして映画女優として生きる道はとれないと思いました。20代の時、日本映画の状況が悪い中、大人の女性を演じきれずに悩みましたが、いい映画に巡り合ううちに本当の面白さを再確認し、また歩き出した。自分の中では、谷があったり風が吹いたりもしたのですが、一般の方からはそうは見えないかもしれないですね。

  よく分かります。

  ユーミンは、ずっと続けていらしてどうですか。

  そのままのように思われていますが、やっぱり、折々で冒険してます。「変わり続けるから、変わらずにいられる」というニール・ヤングの言葉が好き。

  常に行動し、新しいものに挑戦してますよね。

  吉永さんも昨今の活動は、イメージに縛られず、積極的な気がします。

  自分がこれからはどう進んで行くのだろうと、面白くなってるかもしれないですね。

(撮影・三浦憲治)

映画「まぼろしの邪馬台国」(1日から全国東映系で公開)

 昭和40年代、目が見えない文学者、宮崎康平(竹中直人=写真左)の妻となった和子(吉永小百合=同右)は、康平の目となり杖(つえ)となり、共に邪馬台国の発見に情熱を燃やしていく。

    掲載紙購入方法はこちら
プロフィル
松任谷由実  (まつとうや・ゆみ)
シンガー・ソングライター。1972年デビュー。
「卒業写真」など、長年愛され続ける曲を世に送り出す。90年のアルバム「天国のドア」は、日本人初の200万枚超えの売り上げを記録した。「松任谷由実・オフィシャルサイト」はこちら

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/yumiyori/20081107yy01.htm