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2008年10月10日(金) 00時00分

第3回 久米宏さん読売新聞

 シンガー・ソングライターの松任谷由実さんが、とびきり豪華なゲストと対談する「yumiyoriな話」。第3回のお相手は、テレビニュースを変えた名司会者・久米宏さんです。25年以上にわたりラジオ番組を続けているユーミンと、テレビとラジオを巡る深い話が交わされました。(構成・清川仁)

映像の力は怖い

 松任谷(以下M) テレビの印象が強いですが、土台はラジオなんですよね。

 久米(以下K) 子供の時からラジオ聴くのが大好きで。アガリ性の理由が、あこがれた世界に入ったからだと最近、気が付きました。

  テレビよりアガるかもしれない?

  テレビは大人になって知った世界なんで大したことないんです。ラジオは物心ついたころからだから。

  久米さんと言えば、「ニュースステーション」(以下Nステ)ですが、視聴率が高くなってくると、自分の冗談は通じないと感じていらしたんですって?

  僕、冗談がキツめなんです。トゲがないとつまらないから。10人のうち、感性が合う2人が分かってくれて、あとの8人は「何言ってんだ」っていうぐらいの冗談が本当は面白いと思う。視聴率10%とか15%超えると、冗談が分からない人まで見る(笑)。生意気な言い方ですけどね。

  「テレビの風圧」という言葉も使われていた。

  一緒にやっていた小宮悦子さんが、「この番組は風圧を感じる」と言ってたんです。確かに風当たりが強かった。毀誉褒貶(きよほうへん)の嵐みたいな番組でした。

  傷つくこともあったでしょう。

  めっちゃくちゃあります。でも、みんなに好かれたいと思うと、この仕事はできないというのが僕の信念。ものすごく好かれるのと同時に、ものすごく嫌われる部分がないと、面白い番組はできない。

  そんな思いをしてまで……。もっと日常を大切にしたいとか、降りたくなっちゃったなんてこともあります?

  だから降りたんです(笑)。それと、ニュース番組は、世代交代した方がいいと思った。僕がやったって何の影響もないと思ってたけど、10年超えたあたりから、ある程度テレビに力があると分かりましたね。

  大変な時代ではあったけれど、派手でしたよね。フィリピン革命なんて、イメルダ夫人が強烈な印象で、女っぽい事件だと思った。安藤優子さんたちが活躍して、女性キャスター登場のきっかけだった気もします。

  新大統領も女性だったしね。バブルは上り坂だったし、番組予算もあった時代。テレビのおいしいところ、世界のニュースのおいしいところを全部食べて僕が逃げちゃった、と言う友達は多い。でも、ニュースやスポーツ中継はテレビの機能を最も生かした番組で、絶対必要なんです。

  ネットの方が早くなっちゃった今、どうですか。

  僕自身、テレビより、ネット見てる時間が長いですからね。僕が小中学生のころ、映画館はドアが閉まらないくらい客がいた。それが、テレビが始まってしばらくしたら、パタッと人が来なくなった。その話をテレビマンにすると、「へえ〜」って人ごとのように答えるだけなんです(笑)。

  たとえなのに(笑)。

  そういう日が、突然来るんです。それを少しは遅らせられればなと思って、新しいテレビ番組を始めます。

  そこに、ラジオの手触りが入り込む余地があると、感じていらっしゃるのでは。

  まさに、ラジオなんです。今やっているラジオが、「ラジオなんですけど」ってタイトルで、新番組は「テレビってヤツは!?」。義兄弟なんです。テレビカメラや映像、無意識に見ているヤツがどういうものなんだ、って話をしたい。テレビカメラって、人を平常心でいられなくする。山一証券の社長はカメラが一台もなかったら、倒産したってあんなには泣かないですよ。

  例えば、カメラを担いだ人が、拳銃持った人みたいに思えるところはあるかも。

  ある人が泣いたり喜んだりしているのをずっと追いかけるドキュメンタリー番組にしても、「これ、カメラで撮ってんだぜ」と思うわけ。いかにも自然に振る舞ってるけど、全部カメラの前でやってることなんだから。

  昔よりカメラ自体に慣れているとも思えるんです。

  運動会や学芸会で、父親たちが子供をいい場所で撮りたいとかね。でも、最近もありましたけど、殺された女の子が学芸会で歌うシーンを流すのはいかがなものかと思う。あんな残酷なものはない。事件でも、犯人が動き回った映像が出ると、触発される人もいる。人の潜在意識に入り込む力が、動く映像にはある。Nステやりながら、「テレビって怖い」といつも思ってた。生まれた時からテレビがあった人は、それが分かっていない、ずーっと見てるから。

「音」は寄り添う

 くめ・ひろし 1944年埼玉県生まれ。67年にTBSにアナウンサーとして入社。「土曜ワイド・ラジオTOKYO」「ザ・ベストテン」「ぴったしカンカン」などの番組で人気を得る。79年からフリー。85年から「ニュースステーション」を18年半務めた。

  でも長いレンジで考えると、「音」がもっと潜在的に届いているとお思いになりませんか?

  ラジオの方が情緒的ですからね。テレビはまさに即物的ですから、頭にガーンとくる。ラジオは心にそっときますよね。

  寄り添うように。

  長い影響力、あるでしょうね。だって僕、中央高速走るたびに、いまだに「あ、競馬場」「あ、ビール工場」って、思うんです。

  そうきましたか(笑)。私、嫌いなタイプの人がニュースを読んでいると、世の中自体が嫌いになっちゃいそう。久米さんは好きなタイプだから、またテレビを始められたら、好きな時代になりそうです。

  近未来予想を少し、うかがいたい。日本は戦争状態なんじゃないかと思うときがあるんです。監視社会になって、食べ物も安全なものは不足していて。

  日本が戦争になった方がいいと思っている若い人たちがいるんです。あまりの閉塞(へいそく)感で。ただ、僕は「失われた10年」という言い方が気になる。あれは「失った10年」と言うべき。監視カメラも自分たちが設置したんです。世の中、何でこうなっちゃったのかって言うのは間違い。みんながした。だから、世の中きっとこうなる、という予想ではなく、こうしたいっていう話をするべきです。僕は、GDPも減って、国としては貧しくなるけど、一人ひとりは豊かでのんびりした暮らしができる国にしたい。50年、100年かかるかもしれないですけど。

  力強いお言葉をいただきました。

(撮影・吉岡毅)

新番組「久米宏のテレビってヤツは!?」(TBS系、22日スタート、水曜午後10時)

 事件、事故、政治などの話題を、ニュースと異なる切り口で読み解く大人のためのエンターテインメント番組。久米宏にとっては、3年半ぶりのテレビレギュラー番組となる。司会はほかに八木亜希子。秋元康が番組ブレーンとして参加。初回ゲストに、歌舞伎役者の市川海老蔵を迎える。

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プロフィル
松任谷由実  (まつとうや・ゆみ)
シンガー・ソングライター。1972年デビュー。
「卒業写真」など、長年愛され続ける曲を世に送り出す。90年のアルバム「天国のドア」は、日本人初の200万枚超えの売り上げを記録した。「松任谷由実・オフィシャルサイト」はこちら

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/yumiyori/20081006yy01.htm