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2008年10月10日(金) 11時58分

どうなる、こうなる首都圏の鉄道網——(2)東京エリア編その1Business Media 誠

 前回に引き続き、2000年に策定された「運輸政策審議会答申第18号(以下、18号答申)」で描かれている首都圏の鉄道構想を追っていこう。今回取り上げるのは東京エリアだ。

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 タイトルに付いている【数字】は18号答申で振られている数字を示す。また、「○○の現状」では筆者の所感を多分に含んでいることをご承知願いたい。地図はGoogle Mapsより引用し、将来どのように鉄道が走るかを大まかに示した。

●【09】東京1号線の東京駅接着

都営浅草線改良工事の概要

 都営浅草線の宝町駅と日本橋駅から東京駅への分岐線を造り、東京駅で合流させる計画。線路の形はデルタ線状(Δの形)になる。新設する都営浅草線の東京駅はJR東京駅の直下とし、乗り換えの便を良くする。合わせて都営浅草線の蔵前駅に追い越し設備を作る。これにより、都営浅草線、さらに乗り入れ先の京成電鉄を経由した成田空港行きの特急を東京駅から走らせる。同様に、東京駅から都営浅草線、京急電鉄に乗り入れて、羽田空港行きの特急列車を走らせる。

都営浅草線改良工事の現状

 この計画は単なる都営浅草線の改良ではなく、首都東京の空港アクセス政策に関わっている。都営浅草線、京成電鉄、京急電鉄は長きにわたる相互乗り入れの実績があり、京成電鉄は成田空港、京急電鉄は羽田空港に通じている。しかし、都営浅草線内に追い越し設備がないために、それぞれの空港へ向かう速達列車※が設定できない。そもそも都営浅草線が都心からやや逸れているため、せっかくの空港接続路線が生かされていない。そこで地下深くを利用して、都営浅草線から東京駅への連絡線を造ろうというわけだ。

※速達列車……急行や快速などのように、通過駅を持つ列車のこと

 しかし、国土交通省は2008年8月と9月に新たな案を発表した。8月案は宝町駅と三田駅に追い越し設備を造る計画だ。試算では都営浅草線部分だけで約400億円とみられている。羽田空港と成田空港を1時間で結ぶという構想で、京成電鉄が進めている成田新線の開業に合わせて整備したい考えだ。

 9月案はもっと大胆に、都営浅草線の押上—泉岳寺間に新たな特急用の複線を作るというもの。これは単なる複々線化ではなく、東京駅を通るバイパス線となる。当初のデルタ線計画では東京駅と両空港のアクセスしか改善されないが、バイパス線式の新案では羽田空港−成田空港間のスピードアップにもつながる。総工費は約3000億円とみられており、一部の報道では国交省が2009年度予算の概算要求に2000万円程度の調査費を計上したという。

 京急、都営、京成は都営浅草線内を通過運転する「エアポート快特」を運行しているが、追い越し運転ができないため速度は抑えられている。このルートで羽田空港と成田空港とを移動するには2時間程度かかり、リムジンバスの約75分に対して競争力がない。羽田空港発、京急経由品川乗り換えの成田エクスプレスでも、約90分かかる。建設費のめどが立てばバイパス案が最も良いことは明白で、今後はバイパス案が18号答申案に代わる計画として検討されるだろう。願わくは、この工事に合わせて京浜急行も改良したい。バイパス線の南側を、泉岳寺駅ではなく、北品川駅の南側まで伸ばせば、八ツ山橋付近の急カーブによる速度低下を解消できる。

 ただし、この計画は国の航空路線政策の影響を受ける。

 現在、羽田空港の再拡張計画により国際線ターミナルを建設中で、羽田の再国際化が進んでいる。10月1日には米ノースウエスト航空の会長が会見し、羽田乗り入れを目指す意向を示した。北米線、欧州線にも羽田空港が解放されれば、羽田空港のみで国内線と国際線の乗り換えができることになる。そうなると、成田空港−羽田空港間の需要予測は下がる。

 国土交通省が地方空港について、海外の航空会社の乗り入れ規制を緩和したことも影響するだろう。現在、韓国系航空会社によって、日本の地方空港から仁川経由で世界各地へ移動できるルートが整備されている。仁川ルートを利用すれば、荷物を担いで羽田から成田に乗り継ぎ、飛行機を乗り換える必要がない。羽田空港や成田空港が世界の航空市場で対抗するためには、国策として成田空港と羽田空港の役割の見直しが行われるはずだ。成田空港−羽田空港間のアクセスについても再検討されることになるだろう。

 日本の首都空港の機能が現状のままであれば、羽田空港−成田空港アクセスの意味は薄れる。しかし、都心から両空港のアクセスについては改善する必要がある。そうなると、結局は低コストで済む18号答申案に落ち着く可能性もある。東京都では鉄道路線建設だけではなく、長大な地下道に動く歩道を整備する案を含め、さまざまなプランを検討している。

●【11】東京7号線の建設及び延伸(3)

東京メトロ南北線・埼玉高速鉄道線延伸の概要

 東京メトロ南北線の両端を延伸し、目黒駅で東急目黒線と、赤羽岩淵駅で埼玉高速鉄道線と相互直通運転を実施する計画。また、埼玉高速鉄道線は浦和美園から岩槻を経由して蓮田へ延伸する計画。南北線部分は18号答申の翌年に完成した。残すは埼玉高速鉄道線の延伸である。

東京メトロ南北線・埼玉高速鉄道線延伸の現状

 埼玉高速鉄道線の延伸は埼玉県からの強い要望によるものだった。その目的は鉄道空白地域の解消と新規住宅開発のほか、東北本線、東武野田線の混雑を改善し、赤羽、大宮へ集中する人やクルマの流れを分散させるためだったという。

 しかし、(1)埼玉高速鉄道が当初の目論見通りの旅客輸送を達成できず、厳しい経営状況であること、(2)沿線地域で期待通りの開発計画が生まれなかったこと、(3)延伸には多額の公的資金が必要であること。これらの理由から、計画は停滞する。東北本線と東武野田線の混雑が、それぞれの鉄道会社の努力で解消しつつあることも緊急性の低下につながっている。

 埼玉高速鉄道の業績不振を受けて、推進役だった埼玉県は「埼玉高速鉄道検討委員会」を設置し、経営改善や延伸問題に関する提言をまとめた。その後、延伸問題を継続して審議するため、2005年に「埼玉県高速鉄道延伸検討委員会」を設置して、現在も検討を続けている。

 公開されている議事録を読んでみると、蓮田方面延伸に関しては早々に立ち消えとなり、岩槻駅延伸と東武野田線への乗り入れについて検討しているようだ。また、高速運転を実施するため、既存区間に追い越し設備を設置することなども話し合われている。まずは既存区間の魅力を高め、経営を安定させる方針のようだ。

 2006年には浦和美園駅近くに大規模ショッピングセンターが誕生し、ようやく沿線に動きが出始めたところである。浦和美園駅の北、徒歩15分には埼玉スタジアム2002があり、Jリーグの試合も開催されている。埼玉高速鉄道の車両基地はスタジアムの400メートルほど手前まで到達しており、せめて車庫の横に簡易な駅を作ってくれたら便利だろうと思われるのだが、そのわずかな投資もできないほど厳しい状況なのだろうか。

●【12】東京8号線の延伸及び複々線化

西武池袋線複々線化・東京メトロ有楽町線延伸の概要

 西武池袋線と直通する東京メトロ有楽町線の輸送力増強を狙う計画だ。西武池袋線は石神井公園−練馬間を複々線化する。有楽町線は豊洲駅から分岐し、東陽町−住吉−押上−四ツ木−亀有−野田市へ延伸する。住吉−四ツ木間は東京11号線(半蔵門線)を共用する。また、延伸については、「第二常磐線の投資効果に影響しないように着工区間や時期を決めること」とただし書きがある。第二常磐線とは現在のつくばエクスプレスを意味する。

西武池袋線複々線化・東京メトロ有楽町線延伸の現状

 西武池袋線の高架化及び複々線化工事は、1971年に東京都と練馬区で都市計画決定された事項である。このうち桜台−練馬−練馬高野台間は2003年3月に完成した。この輸送力増強が地下鉄副都心線乗り入れのための増発に生かされている。

 18号答申では石神井公園までの複々線化を盛り込んでいるが、都市計画はさらに先の大泉学園までを対象とした。この区間は2007年に国土交通省から都市計画事業の認可を受け、工事が始まっている。完成予定は2014年である。2.4キロメートルの短い区間だが、急行停車駅の石神井公園駅まで複々線化されるため、各駅停車と速達列車が完全に分離できる。増発やスピードアップが大いに期待でき、西武鉄道沿線を活気付ける材料になるだろう。

 一方、有楽町線の延伸に関してはほとんど動きがない。構想そのものは古く、18号答申より15年前の1985年に運輸政策審議会答申第7号(以下、7号答申)に記されている。豊洲駅から分岐して北に向かい、住吉駅で半蔵門線に合流。押上駅からさらに分岐して葛飾区の四ツ木駅に至り、さらに常磐線の亀有駅に接続する構想だった。

 有楽町線の豊洲駅に未使用のホームがある。その理由は、7号答申の構想を受けて建設されたからである。あとで改造するよりは事前に対応させておこうというわけだ。同じ理由で半蔵門線の住吉駅も分岐に対応した構造となっている。

 しかし現在、有楽町線の分岐延伸については「なし」という見方が強い。すでに東京メトロ(旧・営団地下鉄)が「副都心線の開通で新線建設は終わり」と表明しているからだ。そもそも「営団」とは、戦時中の統制政策の組織であり、食料営団や住宅営団などインフラを整備するための制度だった。新規路線の開発予定がないなら、営団である必要がない。だから東京メトロにしたのである。もちろん、東京メトロが民間会社となったからといって、新線建設が禁じられるわけではない。民間企業として利益を上げるためなら新線は作られるだろう。

 ところが東京メトロのように交差する路線を多く持っている鉄道会社は、新線を作るたびにルートのショートカットが発生し、運賃収入は下がっていく。「お金をかけて新線を作ると減収を招く」という状態だ。これでは民間企業として消極的にならざるを得ない。付近の路線が危機的な混雑となり、迂回路線が必要となるまでは着手しないだろう。

 鉄道空白地帯の解決という点で見ると、日暮里・舎人ライナーのような新交通システムのほうが適しているといえそうだ。交通政策審議会が18号答申に代わる提案をするとき、見直されるのではないかと筆者は推測している。

●【13】東京9号線の複々線化及び延伸(1)

小田急小田原線複々線化の概要

 東京メトロ千代田線の沿線と神奈川県北部を結ぶ路線の輸送量を上げる構想だ。18号答申では、小田急小田原線の喜多見−東北沢間の複々線化と、多摩線の延伸について記述されている。ここでは2015年度までに整備されるべきとされた複々線区間を取り上げよう。

小田急小田原線複々線化の現状

 18号答申による複々線化の提言は東北沢−喜多見間と和泉多摩川−新百合ヶ丘間である。しかし、小田急ならびに東京都の都市計画はその範囲を拡大し、東北沢−和泉多摩川間の10.4キロメートルも対象とした。

 東北沢−梅ヶ丘間は地下化による立体交差、梅ヶ丘−和泉多摩川間は高架化による立体交差を採用。また、代々木上原−東北沢間も複々線化し、和泉多摩川−向ヶ丘遊園間も上り2線、下り1線へと改良工事が進められている。高架立体交差区間は周辺住民による訴訟問題によって工事が遅れたものの、2004年に開通した。18号答申が示した区間のうち、残るは東北沢−梅ヶ丘間と和泉多摩川−新百合ヶ丘間となった。

 東北沢−梅ヶ丘間の工事は2004年の9月に始まった。完成予定は2013年だという。この工事が完成した場合、列車の増発とスピードアップによって、現在の朝ラッシュ時の混雑率は188%から160%台へ下げられる。複々線化工事着工前は208%だったから、かなり緩和されることになる。向ヶ丘遊園駅から新宿駅への急行電車の所要時間は、現在の25分から21分になる。これも着工前の33分から12分も短縮されたことになる。

 和泉多摩川−新百合ヶ丘間については具体的な動きはない。2005年10月の報道によれば、小田急は新百合ヶ丘駅までの複々線化を検討しているという。新たな動きは川崎縦貫高速鉄道(仮称)の動きにも左右されるだろう。川崎縦貫高速鉄道は2017年に先行開業区間が新百合ヶ丘駅に接続し、小田急多摩線に乗り入れを希望している。これは新百合ヶ丘駅の改造に関わる問題だ。しかし、具体的な動きがあるとしても、東北沢−梅ヶ丘間の完成以降になると思われる。

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