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2008年10月09日(木) 16時00分

ブラック・マンデーを上回る衝撃 なぜ株式市場は大暴落したのかMONEYzine

■なぜ株式が値下がりするか? 

 世界中で株式市場が大きく値下がりしている。日経平均株価は年初来約40%下落、米国ダウ・ジョーンズ平均株価も約30%下落し、9月29日には1987年のブラック・マンデーを上回る1日としては史上最大の下げ幅を記録した。また、年初は好調であったブラジルなどの資源国の株式市場も下げ足を早めている。どのような要因が株式市場を動かしているのだろうか。

■資金調達難と借り入れコストの上昇

 株式会社は資金を安いコストで借り、事業を行うことで、高い利回りを株主に提供している。リーマンブラザーズ証券の破綻以後、日本を除く市場参加金融機関すべてがカウンターパーティーリスク、つまり取引相手の倒産を恐れて資金の貸し借りを停止してしまった。それに伴い金融機関同士での取引金利は急騰し、それと連動する形の一般企業の借り入れコストも大幅に上昇している。

 借り入れコストの上昇は、利回りの低い事業や債券発行の停止を意味する。市場を大きなインパクトを与えたのは、格付が最上級(AAA)で米国を代表する企業の1つであるGE(ジェネラル・エレクトリック)社の短期社債発行停止のニュースだ。

 その前から急上昇していたGEの資金借り入れコストだったが、とうとう短期の社債ですら買い手が集まらなくなり、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー社に年率10%という利回りで出資を仰ぐことになった。米国債+1%だった借り入れコストが、10%に跳ね上がったのだ。当然、利益率の低下は避けることはできず、株式の価値は低下してしまっている。

■世界経済の成長率の下方修正

 個別銘柄の分析ではあまり問題にならないものの、株式市場の動向は、「経済の成長率」に大きく左右される。日本の株式市場は日本の経済成長率に、世界の株式市場は世界の経済成長率の影響を受ける。今回の信用市場の混乱を受けて、世界経済は大きく減速する見通しだ。IMFの公表している2009年の世界経済の成長率見通しは、当初5%程度であったものを、直近では3%と、リセッションが迫っているという見通しに引き下げている。ここ最近、企業の利益予想も大幅に下方修正されており、この見通しと整合的だ。

 もう一点影響があると感じられるのは、今まで株式市場に折り込まれていた利益成長率が「高すぎた」ということだ。株式アナリストは株式の「理論株価」を計算する際、短期の利益成長率と長期の利益成長率を使用する。通常長期の利益成長率は、過去5年や7年の平均を計算し使用する。これは5年または7年が景気の1サイクルであり、その期間の平均をとれば景気サイクルを超えた長期的な成長率が得られるためだ。

 ところが、この景気サイクルは90年代までは正しかったのだが、2000年以降変わってしまったように思われる。景気サイクルの周期が変化し、2003年以降ずっと好景気が続いてきたが、これにより、株価の前提となる企業の利益成長率は、「好景気」の期間のみを使用した非常に高いものが想定されていた。今回の景気低迷と利益成長率の低下で、短期的だけでなく、長期的な利益成長率も下方修正されており、これにより株価は大きく下落していると考えられる。

■世界中で現金の引き出しが行われている

 世界中で現金の引き出しが行われている。売れるものは売って現金化するという流れの中で、特に流動性が高く、今後見通しが不透明な株式が売られている。米国で金融安定化法案が成立したが、効果が不透明なことからさらに株式が下げ足を速めている。

 絶対リターンを狙うヘッジファンドも、HFRのヘッジファンドインデックスによれば年初来−15%の損失を出している。2兆ドル(200兆円)と言われているヘッジファンド市場で、損失や解約による売りが出ることは、市場に非常に大きな売り圧力を与えることになる。

■今後の見通しは? 

 株式市場の下落要因を上記の3つのように考えると、株式市場の回復は短期的には見込めない。

 世界経済の鈍化はこれから本格化する可能性が高く、米国での雇用環境は悪化しており、住宅市場は下げ止まる気配を見せていない。欧州は金融政策に関して一枚岩でないことを露呈し、至る所で住宅価格が下がっている。今まで世界経済の牽引役であった新興国も、資源価格や株式の下落、投資の引き上げにより見通しは明るくはない。

 金融機関の資金調達難の原因である金融機関の財務状況と収益性の悪化は、一筋縄には解決しない。巨大資本または政府の資本注入が必要と言われているが、特に米国では大統領選挙を控え、政権交代間近のため対応が遅れる可能性が高いように思われる。

 現在はまったく明るい見通しがないように思われるが、事実、暗い見通しと明るい見通しが交錯している時、株価はもみ合う。しかし今株価が一直線に下落しているのは、明るい見通しがまったく見えないという状況を反映していると言える。

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(課長 今調査役)

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