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2008年10月08日(水) 16時16分

<特集ワイド>グーグル「ストリートビュー」 「町並みくっきり」の功罪(上)毎日新聞

 ◇行った気分、新ツール

 グーグルが東京、大阪など国内12都市の町並みをカメラで撮影し、インターネットで公開する新サービス「ストリートビュー」が反響を呼んでいる。「知らない町を探索できて面白い」などの評価や不動産紹介のビジネスに活用される一方、「プライバシー権の侵害」を訴える声も。何が問題で、グーグルはそれにどう対応しようとしているのか。【川口雅浩、前川雅俊】

 ◇表札、車のナンバー…旅行の下見も

 ◇どう守る「見られたくない」

 ストリートビューは道路沿いの風景を静止画像で眺めることができる無料サービスで、07年5月、米国で始まった。日本では今年8月に札幌、小樽(北海道)、函館(同)、仙台、東京、さいたま、千葉、横浜、鎌倉(神奈川県)、京都、大阪、神戸の12都市でスタートし、今後サービスの拡大を目指すという。

 日本の画像は、屋根に特殊なカメラを据え付けた自動車を走らせて撮影した。カメラの高さは地上2・5メートルほどあり、人の目線より高いため、民家の塀の中が見えてしまうこともある。グーグルによると、1都市の撮影には「規模にもよるが、3〜4カ月程度かかった」といい、当面は写真を更新する予定はない。

 通りを歩く人や沿道の建物も映っているため、米国ではプライバシー侵害訴訟が起き、カナダでは行政の中止命令が出て、サービスがストップしている。海外ではオーストラリア、フランス、イタリアでも実施しているが、フランスとイタリアはプライバシー保護の観点から、公開しているのは両国を通過する人気の自転車競技「ツール・ド・フランス」のルートに限っており、一般の住宅地などは公開していないという。

 日本進出に当たり、グーグルは「米国の経験も踏まえ、法的に検討した結果、米国と同様に公道から撮影したものであれば公開しても構わない」と判断。映っている人の顔を自動認識し、ぼかし処理する技術も導入した。自動処理しきれないこともあるため、「画像に問題がある場合は、連絡してもらえば対処する」としている。

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 ところが私道から撮影された画像が多数含まれているほか、表札や車のナンバーが読み取れるケースもある。グーグルは「公道と私道の区別がつきにくい所で私道に入って撮影した画像がある」と認め、削除していくという。しかし、具体的な苦情件数や対応については公表していない。

 ストリートビューの反響はどうか。ネット調査会社のアイシェアが8月、20〜40歳代を中心とするネットユーザー(有効回答376人)に聞いたところ、ストリートビューの存在は70・2%が「知っている」、認知者の65・9%が「利用した」と回答。「旅先や訪問先の下見」のほか、「居ながらにその場所を訪れた気分になる」など娯楽的な利用が目立った。一方、67・6%が「プライバシー侵害の不安」、58・0%が「(道路や建物が特定されるため)犯罪に使われないか不安」と訴えた。

 プライバシーなど法的な問題について、ネットに詳しい落合洋司弁護士は「公道から見えるからといって、肖像権やプライバシー権がなくなるわけではない。例えばラブホテルに入ろうとするカップルは、他人に見られたくないだろう。画像を処理すれば権利の侵害が免責されるわけでもない」と指摘。「グーグルは公道なら問題ないとする米国の考えをそのまま日本に持ち込んだようだが、プライバシーは国によって考えが異なる。日本で訴訟になれば、グーグルは裁判所の納得を得られないと思う」としている。

 8月末には市民団体が「ストリートビュー問題を考える」と題するシンポジウムを開催。主婦連合会の河村真紀子常任委員は「小学生のクラス名簿で住所を検索すれば『あの子はこんな家に住んでいる』とわかってしまう。撮影方法も盗撮に近い。せめてカメラを人の目線まで下げ、車に『ストリートビュー』と大書して撮影すべきだ」など、プライバシーへの配慮を求めた。

 専修大文学部の山田健太准教授(メディア法)は「グーグルは不適切な画像を出さないための手間とコストを十分にかけていない。苦情対応の窓口も十分でなく、社会的責任を果たしていると言えない」などと指摘する。

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 一方、ストリートビューを活用したビジネスが不動産業界などで登場している。不動産業のヒューネル(本社・東京)はマンションなど不動産物件のネット検索にストリートビューを組み合わせ、建物の外観や周辺を眺めることができるようにした。同社は「駅までの道のりや、日当たりなども確認できる」と利点を語る。

 グーグルは「ストリートビューは個人が旅行プランを立てたり、待ち合わせ場所を決める時などに機能を発揮する。観光、教育、不動産業などビジネスにも有効なツールだ。誰もが有効活用できるよう、個人情報保護に尽力する」としており、今後の対応が注目される。

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