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2008年10月06日(月) 00時25分

<パキスタン>復興進まず治安悪化…地震から3年毎日新聞

 7万人以上が死亡した05年10月のパキスタン地震から8日で3年。被災地の北西辺境州では、全半壊した小学校2348校のうち半数以上が再建のメドさえ立たず、4度目の厳しい冬を前に、子供たち約35万人が仮設テントで学び続けている。アフガニスタンの旧支配勢力タリバンのパキスタン側への勢力浸透を背景に、国際的な援助機関がテロの標的となり、事務所の閉鎖や事業の中断が相次いでいるためだ。復興活動は治安悪化の中で先細りの危機にある。【ニューデリー栗田慎一】

 約100人の子供たちが教科書を朗読する声が響く、北西辺境州バタグラムの山間部。視察にやってきた州政府復興事業担当官、ムハンマド・アムジャド氏は4日、地震からほぼ3年を経てもなお、仮設校舎のテントの下で授業を受ける子供たちに、どう説明したらいいのか頭を抱えてしまったという。

 「来年はきっと新しい校舎ができるから」。子供たちには、昨年と同じセリフを口にするのが精いっぱいだった。この地域で教育支援をしていた援助団体は4カ月前に事務所を閉鎖し、州政府にも再建予算や人手が足りないためだ。

 アフガニスタン国境に近い同州は、イスラム武装勢力掃討と、復興事業が同時並行するアフガンと似た状況にある。州警察によると、地震後1年は、武装勢力が地震の復興活動を妨害することはなかった。しかし、掃討活動が激しさを増した昨年から、武装組織側が非政府組織(NGO)を「米国の手先」を呼ぶようになり、これまでに計4件のテロが起きた。

 07年10月、米国のNGO「ケア・インターナショナル」の現地事務所が「女性職員の活動をやめさせろ」と脅迫を受けた後、事務所前で爆弾テロが起きた。今年2月には、英国の「プラン・インターナショナル」現地事務所に武装集団12人が手りゅう弾を投げ込むなどし、パキスタン人職員4人が死亡した。

 「プラン」の事件以降、事業を中断する援助団体が相次いだ。継続している団体も事務所の看板を外したり、車に書かれた団体名を消すなど、存在を隠さざるを得なくなっているという。「武装組織の破壊活動はどんどん過激になり、タリバンと同様に女子教育を禁じる組織も現れ始めた」とアムジャド氏は語る。

 ◇原油高も追い打ち

 原油高を背景としたインフレによる経費高騰も、復興事業の遅れにつながっている。同州で女性の職業訓練を続ける地元NGOの幹部は「人件費や資機材費が昨年より20〜30%上がり、治安悪化による事業の縮小傾向に拍車をかけている。政府の資金提供も3月から途絶えたままだ」とため息をつく。

 【ことば】パキスタン地震

 05年10月8日午前8時50分(日本時間午後0時50分)ごろ、パキスタン北東部を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生。パキスタンで約7万5000人、インドで約1300人が死亡したとされる。

 被害はインドとパキスタンが領有を争うカシミール地方の、パキスタン支配地域に集中した。家を失った被災者は約350万人に上り、学校7000校、8000カ所の医療機関も被害を受けた。

 被災地は、ヒマラヤ山脈西端の険しい山岳地帯。アフガニスタンとカシミール地方という紛争地に挟まれ、救援や復興活動も政治的な影響を受けている。イスラム武装組織は地震後、被災地で救援活動を行い、住民への影響力を拡大した。

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