記事登録
2008年10月06日(月) 00時00分

義父母の遺品で部屋狭い読売新聞

 40歳代女性。夫とは再婚で、息子を連れて夫のマンションに移り住みました。その時まで住んでいた義父母は、私たちと入れ替わりで外に出てくれました。ただ、マンションには義父母の荷物がたくさん残されたままでした。

 その後、義父母は相次いで亡くなりました。遺品は形見分けで配って整理されるものだと思っていましたが、夫は何もしようとはせず、荷物はそのまま。部屋はただでさえ狭いので、何とかしてほしいのです。

 疑問に思ったのは、義父母の靴はげた箱にしっかり入れられているのに、夫が息子の靴を「あまり履かないから」と段ボール箱にしまったこと。亡くなった人も確かに大切ですが、生きている人の生活が窮屈なのも困ります。思い出のあるものだから、すべてを処分してほしいとは思っていませんが、服や本など不要な物は減らしてほしい。どのように夫に話せばいいでしょうか。(千葉・G子)

 物と心を対立させる考え方もありますが、多くの場合、物と心はひと続きだったり重なりあったりしています。遺品の整理の難しさはここにあります。

 あなたの夫君が、遺品の整理に手をつけない理由は、〈1〉故人との関係を断ち切ってしまうようで気が進まない〈2〉ひたすら面倒くさい〈3〉全く気がつかない、あるいは考えたくない。

 あなたから見れば、場所ふさぎで役に立たない品物でも、夫君の側から見れば、自分を含めた家族の歴史です。また、心の底では、あなたの息子さんよりも亡き両親に親しみを持っているのかもしれません。人情としては当然です。

 さりとて、生きている人も大切、というあなたの願いは全く正当です。これは理よりも情の世界ですから、正面衝突は避け、徐々に着々と生身の人間の生活空間を広げていきましょう。そこは家事を担う側の強みです。

 まず息子さんと亡きご両親の靴を入れ替える。聞かれたら「大切にとってありますよ」と答える。あなたと夫君と息子さんの人間関係が良好に積み重ねられれば、それに比例して、生きている家族の空間が広がるはずです。

 (樋口 恵子・評論家)

http://www.yomiuri.co.jp/jinsei/kazoku/20081006-OYT8T00237.htm