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2008年10月06日(月) 17時52分

海外携帯メーカーが話す「日本市場の難しさ」──Samsung電子に聞く、OMNIAの「日本発売と日本戦略」+D Mobile

 OMNIAないし相応の端末は日本でいつ発売されるか、仕様はどうなるか、そもそも日本で発売するのか。韓Samsung電子の情報通信総括無線事業部 日本輸出グループのオウ・チャンミン部長にSamsung電子の日本市場戦略を聞いた。

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ITmedia 2008年7月に海外で発売された「OMNIA」は各国で高い評価を受けていると聞きます。日本でも、先日行われたワイヤレスジャパン 2008に出展し、かなり注目されました。これをふまえまして、OMNIAの現状を教えてください。

オウ・チャンミン氏(以下、オウ氏) ワイヤレスジャパン 2008では予想以上に日本のメディアや来場者、携帯ユーザーの皆様から注目していただき、我々としてもうれしく感じております。TouchWiz UIとタッチパネルディスプレイを搭載した端末は2008年3月に「Haptic」を韓国で発売し、2008年9月現在で約50万台を販売しました。また米国市場向けの「Instinct」も約100万台を販売するなど、Samsung電子のタッチUI搭載端末は好調な売れ行きを示しています。

ITmedia 確かにここに来る途中の韓国・ソウル市内でもHapticを利用している人を多く見かけました。Hapticはどんな層に売れているのでしょう。

オウ氏 Hapticは当初20代から30代の若い世代をターゲットとしておりました。従来の携帯電話とは異なり、指で簡単に直感的に操作できる、携帯電話の新しい使い方をこれらの世代に提唱しようと考えたためです。しかし、発売してみると若い世代はもちろんですが、やや上の世代である40代から年配のユーザーなどにも売れており、世代を問わず支持されているようです。

ITmedia Hapticがそこまで高い人気を得ている理由はどこにあるのでしょう。

オウ氏 Hapticは、弊社としては初となる3.2インチの大型ディスプレイを搭載し、指で直感的に操作できるタッチUI「TouchWiz UI」を採用しました。説明書を読まなくとも、指で画面に触れていくだけでおおむねの機能を利用できます。

 例えば待受画面に配置するウィジェットは、アイコンを見るだけでどんなものなのか、何ができるのかを一目で理解できるようになっています。また、写真や動画、モバイルTV放送なども高画質に再生できます。すなわち、「直感的に簡単に使える」のに加えて「高機能で品質もよい」。ここがよい評価をいただいている理由だと思います。

ITmedia 改めてHapticは、他機種よりどこが優れているのでしょうか。

オウ氏 タッチパネルディスプレイを搭載すること自体は、技術的にあまり難しいことではありません。ただ、タッチパネルディスプレイのメリットを生かした“UI”をしっかり実装することが難しいのです。この点で、TouchWiz UIは待受画面のウィジェットを利用すれば普段よく利用する機能にワンタッチでアクセスできますし、ウィジェットを自由に配置して自分の使いやすいスタイルにカスタマイズすることもできます。

 さらに内部のアプリケーションなどもタッチ操作を生かしたものに作り込んであります。例えばBluetoothのペアリング機能。韓国でも携帯電話に搭載するBluetoothの普及率はかなり上がってきていますが、Bluetooth機器に欠かせないペアリング操作はなかなか慣れないものです。HapticはBluetoothのペアリング画面から機器の検索を行うと周囲にあるBluetooth機器がアイコンで表示され、あとはペアリングしたい機器を指でドラッグするだけで容易にペアリングできる仕組みとなっています。

 このように、メニュー画面などをタッチして操作できるようにしただけでなく、タッチ操作ならではの特性を生かした使いやすい操作体系も実現しているのです。

ITmedia 例えば「iPhone」など、他社からタッチパネルディスプレイやタッチUIを搭載する端末が続々登場しています。これをふまえて、他社製品と比べた御社の強みはどこにありますか。

オウ氏 弊社のものづくりのポリシーの1つとして、「世界最高」や「世界初」の製品を作っていこうという思想があります。しかし、すべての技術や機能において実現するのはなかなか難しいものです。もし、他社が弊社より先に優れた技術を開発したならば、弊社はそれを超えた、ユーザーにとってよりよいものを開発していこうという意識があります。

 すなわち、単なる他社のまねや後追いではなく、ユーザー側に立って他社より優れたもの、より完成度の高いものを作り上げていきたいと常に思っています。OMNIAやHapticのTouchWiz UIはその1つの例といえます。使いやすいタッチUI端末はAppleが作りましたが、弊社はこのタッチUIのトレンドそのものも作っていきたいと考えています。

ITmedia さて、OMNIAないし相応の端末を日本市場でも発売する予定のようですが、OMNIAのような端末を日本市場向けに発売する真意はどこにあるのでしょう。

オウ氏 まずOMNIAを日本市場で発売するかどうかという話の前に、弊社の日本市場向け戦略をお話ししましょう。弊社は海外市場向けに優れた製品を多数販売していますが、日本の携帯ユーザーの皆様にも弊社端末のよさをぜひ体験してほしいと考えています。常に日本でも認められるメーカーになりたいという気持ちを持っています。

 過去、海外向けとして成功したグローバルモデルを日本語ローカライズした製品を投入したり、世界最薄のモデルなどを日本市場に投入しました。しかし、携帯電話は特に消費者に身近な存在であり、毎日使うものです。電化製品でありながら、その国の文化の影響を大きく受ける製品でもあると考えています。つまり、他国では受け入れられたからといって、そのまま日本で受け入れられるとは限らないのです。

 日本の携帯ユーザーに認めていただくためには、日本の携帯文化に適合しつつも、弊社のよさや強みを発揮できる端末を投入する必要があると感じています。この一環として「PHOTOS 920SC」以降は、グローバルデザインではなく日本ユーザーの嗜好に合わせたデザインにもチャレンジしています。ただ、Samsung電子らしさをアピールできる、特徴を持った製品でなくては日本市場においては日本の携帯メーカーとの競争に勝つことはできません。

 では、日本市場でも受け入れられる製品が弊社のラインアップにあるのか。あるいは日本市場向けに新規開発する必要があるのか。これらを考えてみると、OMNIAやHapticのような製品ならば、日本の携帯ユーザーにもその先進性や使いやすさを十分アピールできるものになると思っています。

ITmedia では、日本向けのOMNIAは海外版と同様の「Windows Mobile搭載スマートフォン」になるのでしょうか。あるいは韓国のHapticのような御社の独自OSを搭載したいわゆる「ハイエンドケータイ」になるのでしょうか。

オウ氏 日本でのOMNIA発売が正式に決まったわけではないので、そもそもどちらだ、という回答はできないのが実情です(笑)

 仮に、発売するとしましょう。そうなると、日本のユーザーが何を求めているか、どのような使い方をするのかなど、ユーザーニーズに見合った製品にしないと魅力は決して伝わりません。海外市場向けのOMNIAは、マルチメディア用途とともにビジネスユーザーを主なターゲットとしているため、Windows MobileをOSに採用したスマートフォンとして製品化した経緯があります。

 一方、日本では(プッシュ配信式の)メール機能が重要な機能の1つと考えています。独自仕様の絵文字への対応も必要で、さらにコミュニケーションツールや情報検索用途として、通信キャリアのサービスに完全対応することも必須でしょう。さらにはワンセグ機能の搭載やVGAクラス以上の高解像度ディスプレイも求められます。

 というわけで日本市場向けの製品となると、これらの機能をしっかり搭載できる最適なOSを選択することになるでしょう。

ITmedia では、日本市場向けの製品開発においては、どのような点に苦労するのでしょう。

オウ氏 まず、日本の携帯ユーザーは製品に対する要求が非常に高いと思います。多くの機能を求めるだけではなく、製品そのものへのこだわり方も強いと感じています。携帯電話は“家電製品というよりもその国の文化そのもの”と先ほど述べましたが、その文化も理解した製品を提供しなければどんなに高機能でも興味を示してくれません。この点が海外メーカーが日本市場で最も苦労するところだと思います。

 Samsung電子は海外メーカーですが、日本と同じアジア、そして隣に位置する国のメーカーです。この点で、欧米の携帯メーカーより日本の文化を理解しやすい位置にいると思います。日本の文化への理解を常に深め、日本の携帯メーカーに追いつくように努力したいと考えています。

ITmedia 御社は海外でローエンドからハイエンドまで非常に多くの製品ラインアップで展開しています。最近では、アルマーニなどのブランドとコラボレーションしたモデルも出しました。これらを日本市場に投入する計画はありますでしょうか。

オウ氏 もちろん日本でも複数の製品展開を行っていきたいと考えております。特に世界シェア第2位の携帯メーカーとして、ボリュームゾーン向けの端末などは弊社の強みが特に発揮できる分野です。また、スマートフォンについても「BlackJack」など多数のラインアップを擁し、通信キャリアやユーザーからの要望があれば日本向けに投入することも可能です。

 ブランドとのコラボ携帯は海外市場でも人気が高く、こちらも日本市場で出したいと考えています。弊社がブランドとコラボレーションを行うのは、単にブランドの名前を借りて売り上げを増やすことだけを狙っているのではありません。家電とは異業種であるブランドのエッセンスを製品に加えることで、携帯にも新たな価値を生み出したいと考えているためです。思いきったデザインやカラーリング、新しい素材の使用など、時には家電メーカーでは考えられないような斬新なアイディアがブランド側からもたらされることも非常に多いのです。

 ただ、ブランド携帯といえども日本においてはユーザーが求める機能の搭載も必須となります。せっかくブランド携帯を買っても、ユーザーを失望させてしまうような製品を発売するようではメーカーとして失格です。そのため、ブランド携帯の日本投入については今後もリサーチを続け、仕様や投入時期を見極めていきたいと考えています。

ITmedia 最後に、日本の携帯ユーザーにメッセージをお願いします。

オウ氏 ぜひ1度、Samsung電子の端末を使ってみてください。弊社は日本ではまだシェアも低く、知名度も日本のメーカーほど高くありません。また、海外メーカーということで操作性や品質などを心配する人はいるかもしれませんが、この点は日本のメーカーには劣らないと自負しております。

 Samsung電子は、“ユーザーがどのような端末を求めているのか”を常に考えながら製品を開発しています。さらに日本の携帯メーカーにはない特徴も兼ね備える“Samsung電子ならでは”の製品を、今後も日本の皆様にお届けしたいと考えています。

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