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2008年10月05日(日) 16時09分

家族が不治の病になったら 悩み分かち合う一冊産経新聞

 もしも家族が難治の病にかかり、永久の別れを覚悟しなければならなくなったら、どうすればいいだろう。別れの日まで続く正答のない問いかけや悩みに対し、具体的な場面ごとにヒントを得られる本が相次いで出版されている。余命宣告を受けたがん患者とその家族の姿を通して、闘病を支える悩みを解消する一助がそこにはある。(日野稚子)

 ■相談相手が必要

 静岡県磐田市の藤原すずさん(33)は、膵臓(すいぞう)がんを患った母親の闘病を支えた体験を『おかあさんががんになっちゃった』(メディアファクトリー)にまとめた。告知後の家族の様子をほのぼのとしたタッチの漫画で描いている。

 告知当時、藤原さんは26歳、そして母親は55歳。「治る人が多い時代なのに死を思い浮かべ、ショックを受けました。『私がもっと良い子だったら、こんなことにならなかったのに…』と考えてしまった」と藤原さんは振り返る。

 親類が訪ねてきたとき、家族に対する「かわいそう」「ストレスかしら」といった一言に傷ついたこと、治療法をめぐりあれこれ言われ戸惑ったこと。父や弟と感情が合わずイライラしたり、闘病の末、余命1カ月の宣告を母親に伝えるかどうか悩んだり…。患者の家族だからこそ体験したエピソードを織り込んだ。

 実は、藤原さんの母親の死後、今回の担当編集者で友人の呉玲奈(くれ・れな)さんも母親をがんで亡くしている。呉さんは「闘病中の母親を支えるにはどうしたらいいか、相談したり、話を聞いてもらったりすることで、気持ちが落ち着いた。でも、相談相手が必ずしもいるとは限らない。そういう家族のために、本を出そうと思い、藤原さんに持ちかけた」と話す。

 ■時には不満を

 河出書房新社が出版した『大切な人が「余命6カ月」といわれたら?』は、余命告知から看取るまで55の場面を設定した実用書。がん終末期の患者と家族のケアについて学ぶ看護師ら医療従事者でつくる「ホスピスケア研究会」(事務局・東京都豊島区)が監修した。

 研究会は昭和62年の発足後間もなく、がん電話相談を開始。患者本人や家族から年400件程度の相談を受けた経験が元になっている。研究会の平野友子さんは「こんな時に家族はどうしたらいいか、という視点で書かれた本はあまりない。患者さんの家族からも『こういう本を出してくれたら、どんなに助かったか』と言われたのもきっかけ」と話す。

 家族が突き当たる悩みに対し、「自宅での生活を支えるために」「限られた時間をどう過ごすか」などのテーマを選び、参考にできる選択肢を用意した。

 例えば、親類や知人に連絡する場合、告知の有無で伝える範囲が変わる。疎遠だった人が訪ねてきて、患者本人が「もう長くない」と疑念を抱くこともあるというから、心遣いがあだになることもある。

 「病状や治療法によって、患者さんの体調も気持ちも変わっていく。その気持ちに寄り添っていけないと、患者さんと家族の気持ちがどんどん離れてしまう」と平野さん。

 家族でも価値観は異なるのに気持ち伝え合うことを避け、「まとまれない家族」とめげる人も多い。抱えこんでいた不満をぶつけ合い、わだかまりを解いた実例も紹介した。

 平野さんは「皆さん同じで、行きつ戻りつ、迷いながら進んでいく。100%正しいと断定できる答えはない。この本が、悩み苦しむ時間を減らす一助になれば」と話している。

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