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2008年10月05日(日) 20時33分

金総書記「サッカー観戦」報道の意図は?産経新聞

 重病説が出ていた北朝鮮の金正日総書記(66)の動静が、同国メディアにより51日ぶりに明らかにされた。金総書記がサッカー競技を観戦したという報道だが、北朝鮮としてはこれによって、海外各国が注目する最高指導者の健康不安説を払拭(ふつしよく)する狙いがある。しかし、観戦の日時や場所が不明で、金総書記の写真や映像も報じられず、報道内容が事実かどうかも定かでない。健康状態をはじめとする金総書記の現況は依然、不鮮明だ。(名村隆寛)

 ■健在アピール

 金総書記の動静は国営の朝鮮中央通信が4日、伝えた。金日成総合大学の創立62周年を記念し、金総書記が同大学と平壌鉄道大学のサッカーの試合を観戦したという内容だ。

 観戦した金総書記は「革命的で戦闘的なわが大学生たちが祖国、人民のための科学探究に知恵と情熱をささげただけでなく、芸術や体育の活動も立派にやっている」と述べた。李在一・労働党中央委員会第1副部長ら幹部もともに観戦したという。

 ラヂオプレス(RP)によると、北朝鮮メディアは5日も、朝鮮中央放送が午前6時の定時ニュースで、朝鮮中央テレビが午前9時13分の臨時ニュースで、同日付の労働新聞など主要4紙も1面で金総書記のサッカー観戦を報じ、内外に“金正日健在”を伝えた。

 ただ、いずれも金総書記の観戦日時や場所が不明な点を含め、過去の動静報道の形式とは変わりない。

 ■海外情報を否定

 今回の動静報道は、総書記就任(1997年)以後では2003年2〜4月の49日間の「長期空白期間」とほぼ並ぶ。03年はイラク戦争が起こった時期で、金総書記が表に出ず米軍の状況分析や対米戦略を練っていた−との説があった。

 金総書記はその後、公式の場に何度も姿を見せ、昨年10月には訪朝した韓国の盧武鉉大統領(当時)を出迎え、南北首脳会談を行っている。

 今回は、金総書記が9月9日の建国60周年の節目に姿を現さず、その直後に米国メディアが「脳卒中による重病説」を報道。海外各国で金総書記の重病説が広がっていただけに、北朝鮮としてはまずはそれを否定する意図があったとみられる。

 韓国の聯合ニュースは5日、金総書記の観戦報道について、韓国の情報消息筋が「事実である可能性が高い」と判断していると報じた。10月1日か2日ごろに行われたもようだとしているが、判断根拠は明らかにされていない。

 ■国内向けに発信か

 北朝鮮は10日に、労働党の創建63周年を迎える。先月の建国60周年のような節目の年ではないが、金総書記のこれ以上の“長期不在”が北朝鮮内部にも疑念を広める可能性はある。

 韓国の趙甲済・月刊朝鮮元編集長は、金総書記の重病説が流れ始めた時点で、「北朝鮮内部での情報拡散は必至」と分析した。最高指導者の重病説が広まれば、住民の動揺が高まり体制不安につながりかねない−との見方だ。

 このため、北朝鮮当局が国内に「金総書記健在」の報道を意図的に発信した可能性も浮上している。

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