記事登録
2008年10月02日(木) 12時05分

<橋下知事>「重く受け止める」 原告は「画期的判決」毎日新聞

 「一斉に弁護士会に対して懲戒請求をかけてもらいたいんですよ」−−。2日の広島地裁判決は、思い切った言動が身上の橋下徹弁護士(現・大阪府知事)がテレビ番組内で行った発言を「弁護士の使命・職責を正解しない失当なもの」と断じた。府知事に就任後も、さまざまな発言が物議を醸し、世論の関心を集める手法を用いてきた橋下氏だが、厳しい判決に「重く受け止める」と神妙な表情をみせた。

 原告の1人の今枝仁弁護士は判決後、広島弁護士会館(広島市中区)で単独会見。今枝弁護士は「裁判員制度の開始を目前に控え、報道で得た断片的な情報や印象のみで、十分な調査や検討をせずに弁護人に対し懲戒請求をすることは違法である、と公的に確認された。画期的な判決だ。裁判所に感謝している」と判決を評価した。

 また、「刑事弁護の意義が社会に広く十分に理解されなければならない」と前置きした上で、弁護士の側も「被害者、遺族や社会の理解を得つつ、被告人の利益を得る弁護活動を研究・実践する努力をしていくべきだ。主張や言い分が社会一般から受け入れやすいものかどうかも、今後は被告人の利益の大きな要素となる」と指摘した。

 今回の判決で表現・報道の自由が制限されたのではという質問には「限界を守ってこそ自由が認められる。自由のボーダーラインが示されたことで、かえって活発な自由が得られるのではないか」と話した。【矢追健介】

 ◇報道の責任も

 広島地裁判決を識者はどうみたか。

 田島泰彦・上智大文学部教授(メディア法)は「弁護士活動も市民社会の中で自由に議論されるべきだが、懲戒請求は弁護士の職務にかかわる問題。単なる署名活動とは訳が違う」と請求が相次いだ事態を憂慮した。テレビでの発言について「訴訟の当事者が社会的に影響力のある人で、相手方の弁護士に対する懲戒請求を呼びかけたらどうなるか。利用される危険性があることをメディアは認識するべきだ」と報道の責任も指摘する。

 民事訴訟法に詳しい北海道大学大学院法学研究科の町村泰貴教授は「懲戒請求は非行弁護士を戒めて弁護士の質を保つためにあり、請求が一つあれば事足りる。橋下氏が弁護方針に遺憾の意を示したいのなら自身が請求するだけで良かった」とその姿勢を批判した。

 ◆「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ、07年5月27日放送)での橋下弁護士の主な発言◆

 「ぜひね、全国の人ね、あの弁護団に対してもし許せないって思うんだったら、一斉に弁護士会に対して懲戒請求かけてもらいたいんですよ」

 「懲戒請求ってのは誰でも彼でも簡単に弁護士会に行って懲戒請求を立てれますんで、何万何十万っていう形であの21人の弁護士の懲戒請求を立ててもらいたいんですよ」

 「懲戒請求を1万、2万とか10万人とか、この番組見てる人が、一斉に弁護士会に行って懲戒請求かけてくださったらですね、弁護士会のほうとしても処分出さないわけにはいかないですよ」

 【ことば】光市母子殺害事件

 差し戻し控訴審判決によると、元少年は99年4月、山口県光市の会社員、本村洋さん(32)方で、妻の弥生さん(当時23歳)を強姦目的で襲い、抵抗されたため絞殺。長女夕夏ちゃん(同11カ月)も床にたたきつけたうえ絞殺した。少年側は1、2審で殺意を認め無期懲役となったが、弁護団が代わった最高裁で強姦目的や殺意を否認し、「ドラえもんが何とかしてくれると思った」「精子を入れるのは生き返りの儀式」などと主張した。最高裁は06年6月、無期懲役を破棄して差し戻し、広島高裁が今年4月22日に死刑を言い渡した。

◆事件や橋下徹弁護士発言の経過◆

<99年>

4月14日 山口県光市で主婦、本村弥生さん(当時23歳)と長女夕夏ちゃん(同11カ月)が殺害される

  18日 近くに住む当時18歳の少年を逮捕

6月4日 山口家裁が山口地検に逆送決定

<00年>

3月22日 死刑の求刑に対し山口地裁が無期懲役の判決

<02年>

3月14日 広島高裁が検察側控訴を棄却

<06年>

6月20日 最高裁が無期懲役判決を破棄し、広島高裁へ差し戻し

<07年>

5月27日 テレビ番組で橋下氏が弁護団への懲戒請求を呼びかけ。各弁護士会に対する請求は07年末までに8095件

9月3日 弁護団の4人が橋下氏を相手取り広島地裁に提訴

<08年>

4月22日 広島高裁が元少年に死刑判決

【関連ニュース】
橋下知事:「府民に喜ばれる行為」…文学館「隠し撮り」で
橋下大阪知事:廃止方針の児童文学館の仕事ぶりを隠し撮り
大阪府教育委員:陰山英男氏に橋下知事が就任要請
大阪府教育委員:陰山英男、小河勝両氏を任命…橋下知事
大阪府:橋下知事WTC視察 府庁移転「ここしかない」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081002-00000030-mai-soci