記事登録
2008年10月01日(水) 12時01分

<個室ビデオ店火災>「扉開けたら黒煙」 密室構造が惨事に毎日新聞

 「真っ暗な廊下をはいつくばって逃げた」「眠っていたら死んでいたかもしれない」。命からがら逃げ出した客は恐怖の体験を振り返った。1日未明、大阪・ミナミの個室ビデオ店「キャッツなんば店」で起きた火災。狭い廊下と個室を猛烈な黒煙が襲い、わずか40平方メートルの焼失面積にもかかわらず、15人もの客が犠牲になった。料金の安さからホテル代わりに使っていた人も多く、密室で眠る客に、煙から逃れるすべはなかった。

■発生

 兵庫県伊丹市の男性会社員(37)はその時、小さな部屋にあるリクライニングベッドを倒し、寝転がってテレビを見ていた。「マッチの焼けるようなにおいがした」。異変に気付いたのは午前2時半過ぎだったという。その直後、部屋の外から「わー、何やこれ」という男性の叫び声が聞こえた。慌ててドアを開けたら、黒い煙が一気に部屋に入ってきた。黒煙は顔の高さまであった。男性は「危ない」と思って逃げた。

 人がすれ違うのがやっとという狭い廊下にも煙が充満し、前がよく見えない。男性会社員は廊下の壁を手で探りながら、店の外を目指した。途中、2、3人にぶつかりながら、何とか逃げ出した。ワイシャツはすすだらけになっていた。「たまたま自分は起きていて気づいたが、眠っていたら死んでいた」と青ざめた表情で話した。

 男性会社員(50)は午前2時過ぎ、ビデオを見ていた最中に、天井のすき間から、うっすらと煙が入ってきたのに気付いた。約2分間、ぼんやりしていると、照明もテレビ画面も消えて真っ暗になった。「まずい。火事だ」と思い、部屋を出た。廊下は真っ暗で、煙で息苦しかったが、はいつくばって逃げた。会社員は「店の構造を知っていたので、出口の方向が分かった。もし初めてだったら、方向に迷い、死んでいたかもしれない。自分より後から脱出した人はいなかった」と話した。

■混乱

 店外には次々に客が運び出された。顔が血まみれの人。救急隊員に心臓マッサージをされる人……。すすで顔を真っ黒にした30代くらいの従業員は路上でぐったりと座っていたが、その後、警官に抱き抱えられて連れていかれた。

 現場近くでたこ焼き店を経営する男性(26)は煙のにおいに気付き、100メートルほど離れた自分の店から駆けつけた。そこで見たのは、担架で次々に運び出される遺体だった。「何も考えられないくらいショックだった」と、ぼう然と立ちつくした。現場近くで作業をしていた設備工事業の石村忍さん(32)はサイレンを聞いて現場にやって来た。「白っぽい煙がもくもくとあがっていた。5、6人の男性客が次々にタンカーで搬送された。こんな大変なことに…驚いています」と話した。

■病院

 大阪府内の病院には、負傷者が次々と搬送された。東大阪市の大阪府立中河内救命救急センターには午前4時20分ごろ、すすで顔が真っ黒になった30代の男性が運ばれた。

 大阪市東淀川区の淀川キリスト教病院には午前5時ごろ、全身すすみまみれた30代の男性2人が、口に酸素マスクをつけて搬送された。男性は「爆発して煙を吸った。自分で逃げた」と話した。

【関連ニュース】
【写真特集】個室ビデオ店火災の現場の様子
個室ビデオ店火災:15人死亡10人重軽傷 大阪・難波
個室ビデオ店火災:仮眠用やネットカフェと同様の利用も
中国:深センのナイトクラブで火災、43人死亡
東京・歌舞伎町ビル火災:発生から7年 新宿消防署、50棟立ち入り検査 /東京

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081001-00000047-mai-soci