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2008年09月26日(金) 12時02分

ロコ・ロンドン金取引:詐欺容疑で逮捕 言葉巧みに勧誘 /千葉毎日新聞

 ◇被害女性「任せれば大丈夫と思い」
 「金相場はこれから確実に下がる。今、投資して上がった時点で売れば差額でもうけられる。30年に1度のチャンスだ」。英国・ロンドン市場での金取引「ロコ・ロンドン取引」を持ち掛けられ、出資金をだまし取られた事件。経済用語を使って言葉巧みに出資金を募った手口が、被害者の山梨県内に住むパート従業員の女性(47)の証言によって明らかになった。全国で荒稼ぎした額は総額で約40億円以上、被害者は約700人以上といわれ、全容解明が急がれる。【中川聡子】
 県警生活経済課に詐欺容疑で逮捕されたのは、貴金属販売業「あさひアセットマネジメント」元社長、宮内一仁容疑者(36)=東京都江東区亀戸3。
 この女性によると、自宅に最初の勧誘電話がかかってきたのは07年8月。「制度が変わり、個人でも金取引ができるようになった」。勧誘員は1口50万円の証拠金で金を購入したのと同じ権利を取得すれば、あ社が金価格の変動に応じてロンドン市場で代替取引し、利益を還元する「ロコ・ロンドン取引」の仕組みを説明した。女性が懐疑的な対応を見せると、「新聞で相場を見ていてください」と言い、電話が切れた。
 3カ月後、20代の女性勧誘員から再び電話がかかった。「金は確かに下がった。会って話したい」。数日後、女性宅を訪れた勧誘員は資料を示しながら「海外の貴金属販売会社を通し、金融機関が相対取引を行うインターバンク市場に売買注文を出す。今月中には元金を返し金利で運用する」と説明した。
 銀行の定期預金金利は1%に満たない。7年前に夫を亡くし、預貯金とパート収入で4人の子供を養う女性にとって、勧誘員の言葉は魅力的だった。「教育費の足しになれば」と取引を始めた。女性は12月末までに計600万円を支払った。
 わずか1週間後、年明け早々に電話が鳴った。「金が急激に上がる。さらに投資しないともうけ損なう」。女性は600万円を追加した。
 その後も電話は鳴り続けた。「金が上がるからさらに投資を」「金が下がる。売りに出そう」。一方的な通告に説明を求めると、その度に担当者が代わった。
 今年5月初め、電話で「このままだと利益が下がるから決算します」と告げられた。2週間後、あ社に県警の家宅捜索が入った。最終決算額は450万円という書類が届いたが、1200万円の証拠金は戻ってこなかった。
 「経済的知識がなく、会社に任せておけば大丈夫だと思いこんでいた」。女性は目に涙をにじませた。
 ◇実態解明に期待−−ロコ・ロンドン取引被害に詳しい荒井哲朗弁護士の話
 被害者の損害賠償請求訴訟が全国で提訴され、3月には東京高裁で「取引の仕組み自体が公序良俗に反する」との判決が出た。逮捕は「警察が詐欺的商法に対し厳しい姿勢で臨む」とのメッセージ。民事訴訟では限界がある組織の実態解明も期待できる。
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 ■ことば
 ◇ロコ・ロンドン取引
 ロンドン市場で相対で行われる金の現物取引の総称。「ロコ」は「渡し」の意味だが、実際には現物渡しをせず、相場変動に応じて差金決済を行う場合もある。顧客は証拠金を支払って金を購入したのと同様の地位を取得し、机上の売買によって取引を行う。東京高裁は今年3月、この取引で損失を受けたとする損害賠償請求訴訟で「取引は偶然の事情に左右される賭博行為」との判断を示した。

9月26日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080926-00000036-mailo-l12