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2008年09月25日(木) 11時35分

枝川二郎の「マネーの虎」 投資銀行のビジネスモデル破たん、絶滅危機J-CASTニュース

 ウォール街の投資銀行が絶滅の危機に瀕している。業界第4位のリーマン・ブラザーズが倒産したと思ったら、メリルリンチがバンク・オブ・アメリカに買収されることが決まった。悲観論者で知られる、エコノミストでニューヨーク大学教授のヌリエル・ルービニ氏は、数年前から「投資銀行のビジネスモデルは破たんした。独立系大手投資銀行はすべてなくなる」と主張していたが、時代はまさに彼の予言どおりに進んでいるようにみえる。

■リスク管理の不備が落とし穴

 なぜ、投資銀行というビジネスモデルが破たんするに至ったのか? これには「過小資本」「ブラックボックス化」「短期的な人事考課」…というような、さまざまな要因が絡みあっている。しかし一つに絞るとすれば「リスク管理の不備」をあげるべきであろう。具体的に説明しよう。

 投資銀行は自分自身で多額の高リスク商品(株式、債券、デリバティブ…etc)に投資している。これらのリスクを管理するためには、商品の価格が将来どのように変動していくかを予測することがカギとなる。そのために数学の専門家を揃えて、金融工学を駆使したモデルをつくり上げた。

 しかし、じつはこれが欠陥だらけだった。まず、前提が甘い。将来を予測するベースとなるのは過去のデータだが、仮に過去に変動が少なかったからといって将来が安定的である保証は何もない。1987年のブラックマンデー以降の20年間は、アメリカの株式や不動産市場は、紆余曲折はあったにせよ、基本的に順風満帆の状況だったため、将来の予測がどうしても甘いものになってしまった。

■バブル崩壊は「稀なこと」ではなかった

 さらに、正規分布曲線を使ったモデルが問題だ。正規分布曲線とは、たとえば身長の分布のような(大半の人がせいぜい上下1メートル程度の狭い幅に収まるような)釣鐘型の曲線のこと。これによると日本のバブル崩壊、ITバブル崩壊…といった事象は身長2.5メートルの巨人みたいなもので何百年、何千年に一度起きるかどうかという、稀な事象だということになる。

 しかし、現実にはその手の事件は数年に一度といった頻度で起こっている。さらに過去100年というスパンでみれば、2回の世界戦争や世界恐慌あるいは科学技術の驚異的な進歩など、およそ考え得るありとあらゆることが起きている。今後もっと、とてつもない事が起きる可能性も十分ある。それを想定できていないモデルに欠陥があったのは明らかだ。

 正規分布によるモデルに依存する愚かさについて初めて本格的に経綸を鳴らしたのはナシーム・タレブだ。彼は著書「ブラック・スワン」のなかで、毎日餌を与えられて幸福感に浸っている七面鳥を例に出している。この七面鳥は感謝祭の日に自分が殺されることを知らない。投資銀行の連中はまさに感謝祭直前の絶頂期(?)の七面鳥の立場にあったとはいえないだろうか。

 「災害は忘れたころにやってくる」といわれる。阪神淡路大地震の直後に「まさか関西で大地震が起きるとは夢にも考えていなかった」と言っていた人がいたが、同じように投資銀行の経営陣は「まさかこれだけの価格変動が…」と言いたいところかもしれない。しかし、そんなセリフを吐く(自称)プロにはご退場願うほかない。

++ 枝川二郎プロフィール 枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト 大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。


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