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2008年09月24日(水) 15時35分

「保守派はリベラル派より"脅威"に反応しやすい」:驚愕反射テストで判明WIRED VISION

抜き難い政治的信条の違いは、単に道徳観や知性の違いに根ざしているのではない。生物学的にも違いがある。

心理学者が、党派心の強い被験者46人を対象に驚愕反射のテストを行なったところ、急に脅かされると、保守派のほうがリベラル派よりもショックを受ける傾向が強かったという。

こうした生理的な違いは、軍備拡張、イラク戦争、銃規制、死刑制度、パトリオット法(反テロ法)、令状なしの捜索、対外支援、妊娠中絶の権利、同性婚、婚前交渉、ポルノなど、激しい議論を呼ぶ政治問題に関する見解の大きな相違と符合した。

「世界や脅威を経験する仕方は人によって違う。生理的な方向性は大きく異なる」と、ネブラスカ大学のJohn Hibbing教授(政治学)は指摘する。

9月18日(米国時間)に『Science』誌に発表された今回の研究は、まだ検証されていないものの、生物学、人間の行動、政治をめぐる謎をさらに深める可能性がある。

これまでの研究では、実験で突然大きな音を聴かせたり、感情をかき乱すような画像を見せたりしたときの反射反応と、被験者の不安が高まっている状態との間には関連性があると指摘されていた。

Science誌に掲載された論文の執筆者たちは、拡大解釈しすぎないよう注意を喚起しているが、今回の研究結果は、「恐怖」が政治上の保守主義につながっていることを示唆している。

「脅威を感じる状況に置かれると、保守的な意見、保守的な指導者や政党に対する人々の共感が強まるように思える」と、ニューヨーク大学のJohn Jost教授(心理学)は指摘する。

ただし、論文執筆者の1人で、Hibbing教授と同じくネブラスカ大学のKevin Smith教授(政治学)は、こうした関連付けに反対している。「歴史的にみて、政治家は票を掘り起こすために有権者の『不安』に訴えかけてきた。だが、選挙運動とわれわれの研究結果を関連付けるのは飛躍し過ぎだ」と、Smith教授は言う。

しかしSmith教授も、「強く反応を示す人々は、身近な政治的脅威に人一倍敏感だ」という意見には賛成した。

ニューヨーク大学のDavid Amodio助教授(心理学)に、今回の研究結果は、保守的な人々に対しては恐怖をあおる戦略が有効であることを示唆しているのかと尋ねたところ、同氏は、「そうだ。それに、自分はこの戦略を積極的に利用していると考えている人たちもいる」と答えた。

ブッシュ政権は、人々の恐怖心を利用していると非難されてきた。しかし、これは目新しい政治手法とは言いがたい。

社会批評家でジャーナリストだったH. L. Menckenは、「そもそも実際的な政治の目的とは、恐ろしげな問題を次から次へと突きつけて大衆に脅威を与え、常に不安を抱かせること(そして安全へと導いてくれるよう要求させること)だ」と書いた。

Jost教授はこうした戦術を非難する。「倫理的な見地から言って、保守派は一般大衆の恐怖心に付け込むような選挙運動を展開すべきではない」

もちろん、選挙期間中は倫理は忘れられがちだ——しかし、恐怖心を利用するのは逆効果かもしれない。

「実際的な見方から言うと、操作の実態が明らかになるにつれて、こうした戦術に対する反発がいずれ起きると思う」と、Jost教授は述べる。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のDarren Schreiber助教授(政治心理学)は、「恐怖心を植え付けることばかりに心を砕く候補者は、結局は成功しない。[1950年代にヒステリックな反共産主義運動を展開した]マッカーシー上院議員は、一時的に権勢をふるったが、いまや『マッカーシズム』といえば悪しき政治の代名詞だ」と説く。

政治的利用はさておいて、今回の研究結果にはもっと穏当な面があるかもしれない。

「政治的立場の異なる人々について、『連中はことさら頑迷な態度を取っている』と考えるのでなく、『まあ、彼らの見方は少しばかり私と違っているんだ』と言えるようになる」と、Hibbing教授は述べた。

Science誌の「政治的見解は生理的傾向によって異なる」を参照した。

[過去記事「民主党員と共和党員の脳の違いをスキャン技術で探る」では、さまざまな画像に対する脳における反応が、支持する政党によって違うことについて紹介している]

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080924-00000002-wvn-sci