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2008年09月23日(火) 00時00分

基礎からわかる麻生太郎氏読売新聞

庶民目線のセレブ

 第23代自民党総裁に就任した麻生太郎氏は、政界の名門出身である一方、庶民的な語り口で幅広い人気を集めている。総裁選4度目の挑戦で、トップの座を射止めた麻生氏の人となりを探った。(政治部 浜砂雅一、石川有希子)

華麗なる一族

 麻生氏の系譜の華やかさは、政界でもずば抜けている。明治の元勲・大久保利通を高祖父に持ち、祖父は吉田茂・元首相、岳父は鈴木善幸・元首相、実父の麻生太賀吉氏も衆院議員を務めた。妹は三笠宮寛仁親王妃の信子さまだ。

 かつて宏池会(現・古賀派)の仲間だった自民党の谷垣国土交通相は「国会議員にはセレブが多いが、麻生氏はセレブ中のセレブだ」と評している。

 麻生氏が強く意識しているのが、吉田元首相だ。幼少のころは、神奈川県大磯町の吉田邸で、元首相のひざの上に乗せられてかわいがられたという。

 自著「麻生太郎の原点 祖父・吉田茂の流儀」では、「(終戦後の日本の)第一線で復興に尽力した祖父は『日本人のエネルギーというのはとてつもないものだ。日本人には底力がある』と、事あるごとに語っていたのを鮮明に覚えています」とつづっている。

 祖父の言葉通り、麻生氏が今回の総裁選で掲げた政権構想のタイトルは「日本の底力」。昨年、出版した著書名も「とてつもない日本」だ。

 麻生氏には失言も多いが、太賀吉氏の元秘書で、麻生家の事情に詳しい深町純亮さん(福岡県飯塚市)は「吉田茂さんも(母の)和子さんも、物事をずばっと言い、周囲を冷や冷やさせることがよくあった。麻生氏はその血を受け継いでいるんじゃないか」と語る。

■半径1・5メートルの男

 麻生氏の友人で、飯塚JC元理事長の竹下茂木さんは「いつも明るい。相手が緊張していても、ざっくばらんに話す。若い人が相手でもきちんと相手を立てる」と評している。会話したり一緒に酒を飲んだりしなければ魅力がわからないという意味で、「半径1・5メートルの男」とも呼ばれる。

 マンガ好きも有名だ。毎週10冊以上の漫画誌を読破する。外相時代には、主に若手の外国人漫画家を顕彰する「国際漫画賞」を創設した。アニメやポップ音楽、ファッションなど若者文化にも詳しく、サブカルチャーの発信が「日本の底力」につながっていると強調している。東京・秋葉原で「『オタク』のみなさーん」と聴衆に語りかけた06年総裁選での街頭演説は、インターネット上ですでに「伝説」となっている。

■「冷や飯」時代も

 育ちの良さから、苦労知らずと見られがちだが、麻生産業—麻生セメント時代には、斜陽化した石炭鉱山の閉山に伴う人員整理など「汚れ役」も引き受けた。結婚直後の1983年の衆院選で落選し、新婚時代を浪人として過ごした。

 86年衆参同日選で返り咲いたが、所属した旧宮沢派内では、加藤紘一・元幹事長らとそりが合わず、初当選から96年の初入閣までに17年を要した。98年に同派を脱会し、河野洋平衆院議長と行動をともにして「河野グループ」に入ったが、その後も長く小派閥の悲哀を味わった。当時は「『冷や飯』の食い方ならおれに聞いてくれ」と周囲に冗談を飛ばしていた。

 頭角を現したのは、文教族としてサッカーくじ導入に尽力し、森喜朗・元首相らと近い関係になってからだ。森内閣で経済財政相を務め、小泉政権でも自民党政調会長、総務相、外相と要職を歴任した。

 口癖は「政治家は、義理と人情とやせ我慢」。過去3回の総裁選で、自身を支持してくれた人への恩義を大切にする考えだ。

 24日には国会で第92代の首相に選ばれる。

 「今の国会や経済を考えると、火中のクリを拾うどころか、溶鉱炉に身を投じるようなものだ。首相就任は、半ばうれしくもあり、半ば心配でもあります」

 深町さんは今の心境をこう語る。

ちか子夫人 手料理でサポート

 ファーストレディーとなるちか子夫人(58)は、東京生まれの東京育ち。父に鈴木善幸・元首相、弟に鈴木俊一・元環境相を持つ。

 日本女子大家政学部を卒業後、ある会合の席で麻生氏と知り合い、33歳で結婚。「あまり表に出たがらない控えめな性格」(周辺)ながら、麻生派の議員夫人を招いて食事会を開くなど、多忙を極める麻生氏をかげで支えてきた。

 特に、麻生氏の地元の福岡県飯塚市では、なかなか地元入りできない麻生氏に代わり、こまめに支持者を回る。気さくな人柄で、飯塚では「麻生氏より人気がある」と言われるほど。

 趣味は料理とバラ栽培。東京都渋谷区神山町にある麻生氏の自宅は、ちか子夫人が育てた様々なバラで彩られている。

知人はこう見る 本音の話できる

 「麻生さんと会ったのは3年前。麻生ファンである友人の紹介だった。その時、麻生さんは『外交は国益をかけた戦い。でも、30%の誠意がないとまとまらない』と語り、この人は上っ面でなく本音の話をする人だなと思った。私は彼の話に感激し、『この男を首相にする』と決めた。麻生さんは、明るく楽しく暮らすにはどうしたらいいかを示してくれる政治家だ」(日本テレビ系「行列のできる法律相談所」に出演している北村晴男弁護士=9月7日、麻生氏の地元会合での講演で)

着こなし上手

 「かれこれ45年のお付き合いになります。私の店で年に4、5着は英国式のスーツを新調されますが、きまってシングルの三つボタン。これほど長い間、同じタイプのスーツを買い続けるお客様は珍しい。『これだ』と決めたことは、貫き通す意志を持っている方だと思います。洋服にとても詳しく、ウエストをしぼって袖ぐりを小さくするなど、美しく着こなす工夫をいくつもする細やかな面もあります」(麻生氏が通う東京・北青山の「テーラー森脇」の森脇精一郎社長)

オタクの皆さん/中国、ふざけるな/お前の仕事だろ…麻生語録

 「当時、朝鮮の人たちが日本人のパスポートをもらうと、名前に『金』とか書いてあった。(中略)仕事がしにくかった。朝鮮の人たちが『名字』をくれと言ったのが(創氏改名の)始まりだ」(03年5月、講演で。その後、謝罪)

 「秋葉原のオタクの皆さん、ありがとうございます。なにせ皆さん若い人が多い。『キャプテン翼』知ってる人?(中略)Jファッション、Jポップ、ジャパニメーションという3Jがアジアを席巻しつつある」(06年9月、東京・秋葉原での自民党総裁選の街頭演説で)

 「どっちが高いか、アルツハイマーでもこれくらいは分かる」(07年7月、コメの内外価格差について富山県での講演で。翌日陳謝し撤回)

 「中国の製造責任は大きい。ふざけるなという話だ。断固究明し、(中国に対して)もっと怒らないといけない」(08年2月、中国製冷凍ギョーザによる中毒事件について)

 「(福田首相は)ひょうひょうとした感じで、『困っちゃうんですよね』と言われても、『バカ、それはお前の仕事だろ』と私は見る」(08年5月、都内のトークショーで)

麻生太郎氏のプロフィル

【生年月日】1940年9月20日(68歳)

【身長・体重】175センチ、70キロ

【血液型】A型

【家族構成】妻・ちか子さんと1男1女

【当選回数】9回

【愛読書】歴史書、マンガ

【座右の銘】天下為公

【尊敬する人物】ロバート・ウォルポール(18世紀の英首相)

【趣味・特技】読書、ゴルフ、クレー射撃(元五輪日本代表)

【カラオケの十八番】「花と龍」など

【好きな食べ物】ミートスパゲティなど

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080924-4471734/fe_080923_pr_aso.htm