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2008年09月23日(火) 19時41分

暴力支配・親の悩み…フリースクールの盲点 京都の虐待事件産経新聞

 「腐った弁当を食べさせられ、トイレや入浴も制限された」「木刀で殴られ、木に縛りつけられた」。京都府京丹波町の「丹波ナチュラルスクール」を舞台にした虐待事件。京都府警に傷害容疑で逮捕された経営者の朴聖烈容疑者(60)が施設を暴力で支配した異常な実態について、保護された入所者らは口々に訴えた。フリースクールが不登校や引きこもりの子供らの受け皿になる一方、法的な位置づけや届け出の義務などが一切ないことが、こうした悪質な施設の野放しにつながった。

■暴力が支配した「監獄」

 昼間は延々と畑仕事や内職作業をさせられ、夜は外側から鍵のかかったプレハブで軟禁状態。食事は5分以内、トイレや入浴の回数も制限されるなど、同スクールの運営は監獄さながらだった。理由もなく木刀で殴られるのは日常茶飯事で、冬場に屋外で木に縛りつけられ、水をかけられた入所者もいる。

 生活環境は劣悪そのもの。朴容疑者は親族の経営するコンビニエンスストアから期限切れの弁当や総菜を仕入れ、賞味期限などを記載したシールをはがしたうえで入所者に与えていた。

 入所者は「腐ったにおいのする弁当を食べさせられていた」「おなかを壊しても病院に行かせてくれない」と話す。入所者が生活していた2階建てプレハブの裏側は、食品容器や生ゴミなどが散乱し、悪臭を放っていた。

 嫌がる入所予定者を自宅から施設まで移送する際は、保護者と事前に打ち合わせたうえで就寝中の深夜などに訪問。手錠などで身体を拘束して数分間で手際良く連れ去っていた。この時、入所者には行き先や目的を伝えず、「お前が悪いことをしたからこうなった」とだけ告げ、恐怖をあおっていた。

 施設に到着すると、すぐに職員らから暴行を加えられた。朴容疑者に逆らうことは不可能で、入所者は「何を言われても『すみません』としか言えなかった」と話している。

 府警の調べに対し、朴容疑者はいまだに「平手で殴ったのは事実だが、しつけの一環だった」と供述しているという。

■親の悩みに付け込む

 同スクールは、朴容疑者が約20年前に寺の敷地を借りて私塾を開いたのが始まり。「スパルタ教育できちんとしつける」「自然豊かな山里で子供の生き甲斐を探求」「20年以上の実績があり大学に進学した者もいる」などとうたって入所者を全国から集めていた。

 入所金は200万〜350万円、月謝は毎月10万〜15万円と高額だったが、子供の不登校に悩み続け、わらにもすがる思いの保護者を手玉に取り、入所の契約を取り付けていった。

 保護者が施設見学に訪れた場合には、同じ敷地内にある寺院の本堂などで応対。実際に入所者が寝泊まりするプレハブには案内しなかった。入所後は外部との連絡を遮断し、保護者が面会に訪れた際も施設職員が同席。入所者には「余計なことを言ったらどうなるか分からないぞ」などと口止めしていたという。

 「スパルタ教育とは聞いていたが体罰があるとは知らなかった」「お寺なら大丈夫と思って安心していた。実態が分かっていたら入所させなかった」。こう言って子供を入所させたことを後悔している親もいるという。

■調査権限なし

 そもそもフリースクールに明確な定義はなく、行政の権限が及ばないため、正確な施設数や運営の実態は不明だ。

 今回の事件では、20年以上前から存在する同スクールを京都府が把握したのは、昨年10月に入所者の脱走騒ぎがあってから。その後、児童相談所が数回、訪問しているが、施設側が「18歳未満の子供はいない」などと回答したためそれ以上の調査ができず、今年8月になってようやく入所者を保護した。児童相談所を管轄する府家庭支援課は「フリースクールに対して指導や調査などの権限がなく、対応に限界がある。今回の対応に落ち度はない」との立場だ。

 一方で、京都府教委はフリースクールについて先駆的な取り組みを進めている。引きこもりや不登校といった問題の深刻化に対応するため、フリースクールでの教育活動を公立学校での出席や成績に反映。今年3月には、学習レベルや安全確保などのガイドラインを満たす3スクールを「協働施設」として独自に認定し、連携を強化している。学校での義務教育を大前提とする自治体の教育委員会が、こうした事業に乗り出すのは異例という。

 府教委は「あくまで学校復帰を目指すことに変わりはない。公教育との関係に関しては議論があると思うが、子供の立場に立って現実的な対応を進めている」としたうえで、足元で起きた今回の事件については「あれがフリースクールといえるのか。制度のあり方はともかく、被害者は子供だということを忘れてはならない」と強調した。

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